ボタン
知ってるでしょう?
かつては遠くの人と知り合うのは容易なことではなかった
たとえ陸続きのこの国でもね
異世界の食べ物に
異世界の音楽
異世界の服装
何もかもが魔法の扉を開いたように思えたし
相手の当たり前が信じられなかった
知ってるでしょう?
手紙一つやり取りするのも大変だった
寝ながらボタンを一つ ぽち
そんなことは想像もつかない
それは
あなたの心が読めたらなと
思うこととは違うの
簡単はいつかおざなりに
手軽さはいつかなおざりに
スイッチ一つでマイクの向こうの声が聴こえる喜びを
もう忘れちゃった?
私のお便り
いつ届くのかドキドキしながら
耳を澄ませていた日を
忘れちゃった?
たった20年で
私たちはどこでもドアを手に入れた気分
でもそれは
戦争をするためのものじゃない
胸の中に入れた
合鍵を渡すためのもの
紅葉が来る前に
赤は緑が好き
緑も赤が好き
だからクリスマスは一緒にいる
二人が姿を消す瞬間がある
紅葉が始まる前に
どこかへと旅立ってしまう
赤がいない事に気がつく頃
クローゼットから長袖のシャツを出す
赤と緑が戻る頃
きっとセーターを探す
赤と緑はどこへ行ったかは
教えてくれない
私も二人がいない間をどう過ごしたかは
教えない
紅葉が来る前は一瞬なんだもん
遠くて小さい
姿を探すのも難しいほどの小ささで
街を覆うほどの香りを解き放つ
忘れずに香りを届ける
その香りをずっと
閉じ込めておきたいのに
雨が花を散らす
遠く離れているのに
輝かしい
誰もが空を見上げて
美しい輝きを見上げる
私の部屋まで届いて欲しいけど
街はネオンでいっぱい
小さな粒がパンをふっくらとさせる
小さな体が
どこまでも声を響かせる
神様も
遠くて小さい
刻む
あなたの心を切り刻んで
私のことを刻ませる
あなたの心を切り刻んで
忘れないようにする
優しい心を切り刻んで
この世は無残だと刻ませる
冷たい心を切り刻んで
固く閉ざした種を息吹かせる
飢えた心を切り刻んで
水を注ぐ
あなたはいつ
私を切り刻む?