無人島 鬼 たばこ

  人間と鬼は対立している。当然だ。違う種族なのだから、理解し合えるはずもない。鬼の島は資源不足で悩まされ、人の島は鬼の存在自体を恐怖している。鬼の島と人の島の間に位置する無人島を戦場として今日も鬼と人間が戦っている。戦争だ。

 ある日の戦いが終わった後、一人の人間の男が戦場である無人島に戻ってきた。たばこを拾うためだ。戦場には鬼が落としたたばこが落ちていることがある。たばこは人間にとって非常に貴重な物であるが、鬼の島ではありふれている物だからだ。人間の兵士は全員がたばこ好きなので、毎日交代で戦場に戻りたばこを拾う。

 

 俯いて歩いていると何かにぶつかった。鬼だ。俺は武器を持っていなかった。一対一では鬼に勝てるわけもない。とっさに命乞いをしようとした。そのとき。

 「オマエ、ナニシテル」

 そう鬼に問われた。攻撃されなかったことに驚きながら答えを返した。

 「たばこを探していたんです。人にとっては貴重な物なので。」

 それを聞いた鬼は

 「オレタチマイニチタバコスウ。アマッテルカラアゲル。」

 そう言ってたばこを差し出してきた。鬼は意外と優しいのかも知れないと思った。話が通じるかもと思った。そこで俺は鬼にあるお願いをした。

 次の日、無人島で行われていたのは戦争ではなく商売だった。鬼がたばこを売って、人が何か役立つ物を対価として支払う。こうして人々の鬼に対するイメージが好転つつ毎日たばこが吸えるようになった。また、鬼も長年の資源不足を解決することが出来た。

 鬼と人は分かり合い、世界から戦いはなくなった。

雛鳥 執事 筆

  私は今、とあるお屋敷に来ている。

 目の前には、お屋敷の小太りなご主人が3人掛けのソファーに深く腰を下ろし、その右後ろに筆のように長く逆立った立派な髪の毛を持っている執事が直立している。

 このお屋敷の主人はたいそうな芸術家で、画家である私の絵を気に入ってくださっていて、よく絵の依頼をされるのだが、一つ問題があった。

 「今日は、雛鳥をかいてほしくてね」

 今日「も」だ。この主人は大の雛鳥好きで、そこらに見える芸術品も雛鳥がモチーフとなったものばかりである。巨大な庭園に似合わないような、雛鳥の飼育所が置かれている位には好きなのだ。景観よりも雛鳥である。ご主人は私が昔かいた雛鳥の絵を気に入ったようで私に絵の依頼をしてくるのだ。嫌というわけではないが、さすがにあきれてしまった。私の夢がこの屋敷になかったならば、私はここには通わなかっただろう。

 「なるほど、、、雛鳥ですか、、、どんな雛鳥をご所望で?」

 わざとらしく頷きながら質問する。

 「とても大きな絵が良くてね。私よりも高さがほしいのだよ。」

 ついに来た。このときを待っていた。

 「わかりました。しかし一つ問題がありまして、、、大きな絵を描くための筆がないのです」

それを聞いた主人は今にも死んでしまうのではないかと錯覚してしまうくらいの絶望に染まった表情をした。

「ただ一つだけ解決する方法があるのです。」

それを聞いた主人は天に昇っていくような幸せに染まった表情をした。

「そこの執事殿を筆にすれば良いのです。」

そう、これが私の夢だ。執事を筆にして絵を描く。これが叶えばもう思い残すことがない。堅実に依頼をこなして自然とお願いできる日を待っていたのだ。

 「なるほど。お願いできるか?」

 主人は執事を見ていった。

 「気は進みませんな。ですが、一つだけお願いをかなえていただければ引き受けましょう。」

 主人は怪訝な顔をした。

 「もう歳をとってきたので退職させて頂きたいのです。言い出しがたいことでしたので発言できずにいたのです。余生は実家で過ごすのが夢なのです。」

 主人は軽快な顔で笑った。

 「よいよい。残りの職務はほかの使用人に任せよう。」

 こうして、3者の夢が乗った絵描きが始まった。

 

 一ヶ月かけて絵は完成した。執事の髪はこれまでのどの筆より美しくしなやかで、書き心地も抜群だった。ご主人は完成した絵に満悦で涙を流して喜んだ。執事はおかげさまで、実家で余生を過ごせます、と何度も言っていた。

三人は夢をかなえた。

帰りの際、主人に挨拶をした後執事になんとなく聞いた。

「あなたにはこの仕事が似合っていると感じていたのに本当にやめてしまうのですか?」

執事は困ったような表情をして小声で言った。

「私の好物は卵なのです。」

黒猫 山姥 望楼

 我輩は山の上の望楼に住んでいる。この山はとても居心地が良い。食べ物の種類も豊富だし、水にも困らないし、毎日それなりに暖かい。この望楼は古く、歴史があるようで、人間たちがそれなりに少しやって来る。人間は、結構食べ物をくれるし、娯楽に使えるものだって提供してくれる。少しありがたい。こんな素晴らしい場所に住めるとは、我輩は運がいい。

 ただ一つだけ、ほんの少しだけ困ったことがある。

 この山に山姥が住んでいるのだ。深いしわが刻まれた顔はとても恐ろしかった。人間たちを狙っているに違いない。

 山姥を最初に見かけた時はどうでもいいかなと思っていたが、我輩は頭もいいので考えた。山姥の被害者が出たら人間はもう来なくなってしまうのではないか?と。それは困る。だから我輩は不運で愚鈍な人間を山姥から守ってあげることにした。

 山姥の家は、望楼から続く人の通る道の反対を少し下ったところにある山の中にある。山姥は毎日、日が上る前に家を出て、人間たちが我輩に恵んでくれた食料や物品を奪う。それを袋に入れて入念に縛り、金属で出来た蓋付きの箱に入れる。我輩が手を出すことを想定したような構造で、結局手を出すことは出来なかった。

 山姥は毎日同じルートを通る。山姥は毎日望楼の柵に手を置いて休憩をする。だから、我輩は、柵を削り壊れやすくした。

 山姥は我輩が思い描いた通りに望楼から落ちた。上手くいった。これで明日からは食料も物品も全て我輩のものだ。

 だが次の日から人間は来なくなった。望楼は撤去されその山は荒れ果てた。山姥は山姥ではなく人間で、山をきれいにしていたと気づいたときにはもう遅かった。我輩__黒猫は、自分は運が悪かったのだと認め、次の住処を見つけるため、山を後にした。