消化器内科医のひまつぶし

医療関係を中心に?日々起こった事、思った事書いていこうかと思います。

ブログ閉鎖

 

 ご無沙汰しております。

 

 この2年仕事の形態変化やら私生活の変化やらかなり激動な日々を送っておりブログを中断しておりました(言い訳)

 

 中々新しい流れを作り出すのに苦労しておりここで一旦ブログを終了しようと思います。

 

 そのうち何かでまた書き始めるかもしれませんので、もしご興味があるという希少な神様のような方がいらっしゃいましたらtwitterをフォローしていただければ幸いです。

 

 twitterでは一応ほぼ毎日何かしら呟いております。

 質問箱設置してますので医療に関してもやんわりお答えしておりますのでご確認いただければありがたいです。

 

 これまでご愛読してくださった方々本当にありがとうございました!!

 

ブログの説明

当ブログを見て頂き誠に有難うございます。

カテゴリー別に分けておりますので、良ければ他の記事もご覧ください。

カテゴリーの説明とおすすめ記事を何個か紹介させて頂きます。

 

【役立ち医療情報】

胃カメラ、大腸カメラなどの情報を中心に掲載しております。

その他気になった情報をまとめたりしていこうと思っております。(多分…) 

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【医療雑記】

医療情報というよりは、医療ならではの特殊な体験を掲載しております。

まぁいわゆる日記みたいなもんです。ひまつぶしになれば幸いです。

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【研修医時代】【優しい笑顔】【血を吐いた!その時現場は。】

医療雑記で書いてたつもりが思わず長編化してしまったので、

カテゴリー別に分けました。小説もどきな感じになってますがほぼノンフィクションです。

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【学生】

医学生さん向けに思ったことを書いてみましたがまだ2回生どまり...

ご要望があれば書いてみようかと思ってます。(まずないと思うけど…)

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【番外編】

上のカテゴリーに入らないもの入れてます。

今の所うちのaibo紹介だけです(笑)

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時間に余裕のある方見て行って頂ければ嬉しいです。

何か気づいたことございましたらよろしければコメントもお願い致します。

【研修医時代】心臓血管外科編 その8

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いていきたいと思います。

 

前回の話はコチラから 

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【あらすじ】

いよいよ心臓の手術が始まった。その方法に驚きそして自分の甘さを再認識した僕。そんな葛藤をよそに手術は続いていくのであった。

 

 

心臓が止まった。。

人工心肺は独特の音を立てながら、一人の命を循環させている。

 

静寂が広がる手術室で教授の声が響く。

 

 

「重野!もっと術野拡げろ!」

 

「違うだろ!もっとあげろ!!」 

 

全くついていけない僕は何を怒られているのかさえ理解できない。

 

目の前の拍動を止めた赤い臓器は目まぐるしい速さで切り開かれていく。

 

そしてついに僧帽弁が露出された。

と思った次の瞬間には切開を加え始めている。

 

動画を早送りで見ている時のような感覚に囚われつつ、次の展開を予測する。

 

(次は…)

 

 

宮田「機械弁出して!」

 

…予測する暇もない。

 

 

摘出した僧帽弁の代わりに機械弁を縫い付ける。

しっかりと縫い付けた後に、切り開いた心臓を閉じていく。

ここで縫い方が甘いと、心臓が破裂してしまう。

 

ここでもスピードは落ちることはなく、みるみるうちに心臓が元の姿を取り戻す。

 

 

これで終了…とはいかない。

 

 

続いて人工心肺からの離脱が待っている。

氷を取り除き、体温を戻す。

 

次の瞬間に先程までずっと怒っていた教授の声が止む。

 

 

 

…ピッ……ピッ…ピッ…ピッ

 

モニターから心音が鳴り始める、術野を除くと、先程まで眠っていた心臓が動き始めていた。

 

(…動いた!)

 

理屈では分かっているが、止まった心臓が動き始める瞬間は、命が戻って来るようであり、冷静に興奮しているような何とも言えない感情が湧き上がる。

 

 

しかしこれでもまだ安心はできない。

徐々に体内の血液循環量を増やし人工心肺から離脱していくのだが、

ここで血圧が安定しないと離脱困難となり、厳しい戦いが続く。

 

 

宮田「…よし!」

 

縫合部からの出血はなく、血圧は110/70...見事に保てている。

…離脱成功だ。

 

 

宮田「よし、じゃあ閉胸していく。」

 

張り詰めていた空気がようやく弛む。

 

 

先程までの怒号はどこへやら、教授は笑顔で重野先生に話しかけている。

 

 

次の瞬間、体にどっと疲れが押し寄せる。

気付けば4時間近く経過していた。

 

 

(先が思いやられるな…)

 

 

全て終え術後ICUに戻ってきたころには午後3時となっていた。

 

 

中森「お疲れさん。初めての手術はどうやった?」

 

僕「あんなに早いのでびっくりしました。あと...怖かったです。」

 

中森「失敗したらあのまま目覚めんしなぁ…まぁ無事に終わってよかった。指示出したら飯いこか。」

 

手術の後は何となく皆優しくなる。

いつも厳しい中森先生も、柔らかい雰囲気を纏っていた。

 

 

その後2人で遅めの昼食をとりその日は終了した。

様々な感情にとらわれながらも、ようやく一つの壁を超えた。

 

明日からも続く激務に募る不安を、その日は少しの自信が包んでくれ、ゆっくりと眠りについた。

 

ここで一旦終了します。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

 

【研修医時代】心臓血管外科編 その7

 

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いていこうと思います。

 前回の話はコチラから

 

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【あらすじ】

ついに手術当日となった。手術室にて場違いな空気に戸惑いつつ、準備に取り掛かる所に教授がやってきた。そしてついに手術が始まるのだった。

 

 

中森先生と手洗い場に着いた僕は、見様見真似で手洗いを始める。

 

ブラシで指先から肘までごしごしこする。(今は指先以外は手で行っています)

そして水で流す際は、指先に水が流れないよう肘を立てながら行う。

これを何度か繰り返し、最後に清潔な紙で水滴をふき取る。

 

その後看護師さんからガウンを着せてもらい、手袋を受け取り手術室で手袋を装着し準備完了となった。

 

宮田「中森遅いぞ!」

 

臨戦態勢に入った教授にとって、僕は眼中になく全く相手にされなかった。

 

ただ、この時は緊張感の高まりからそんな事を気にする余裕などなかった。

 

 

中森「じゃあ先生は俺の向かいに立って。邪魔にならんようにな。」

 

僕「は、はい!」

 

 

第一助手には重野先生がついていた。

 

重野「…よろしく。」

僕「…よろしくお願いします。」

 

小声で重野先生が話しかける。

無口な先生なりの気遣いが嬉しい。

 

宮田「さて、じゃあよろしくお願いします!これより僧房弁閉鎖不全症に対する弁置換術を行う。」

 

一同「よろしくお願いします!」

 

 

…ついに手術が始まった。

 

 

メスで胸の中央に切開を加え、それを電気メスで広げていく。

 

テレビでしか見たことのない映像がより鮮明に、より詳しく目の前で繰り広げられていく。

 

 

術式についてはある程度勉強はしたものの、正直よく分からなかったため、

とりあえず解剖学(心臓、血管、神経の走行など)だけは頭に叩き込んできた。

後は見て理解していくしかない。

 

喰らいつくように術野を覗き込む。

 

 

あっという間に胸の骨が露出する。

今度はそれを電動鋸(のようなもの)で切断していく。

 

 

切り終わったら専用の器具で骨に引っ掛けて心臓を露出する。

 

 

顔を出したその赤い塊はリズミカルに脈打っている。

 

宮田「人工心肺!」

 

 

その一声とともに、技師さんが動き出す。

 

技師「OKです!」

 

 

2つの管が看護師さんから教授に渡される。

 

心臓に帰ってくる血液を吸い上げるための【脱血管】と

吸い上げた血液を体内に戻すための【送血管】である。

 

 

僧房弁を切り取り、弁を入れ替えるには心臓を切り開く必要がある。

しかし血液が流れている状態で心臓にメスを入れたらもちろん死に至る。

 

そのため心臓に流れ込む血液を脱血管で抜き取り、人工心肺装置に送る。

こうする事で心臓には血液が流れなくなる。

 

しかしこのままでは死んでしまうので、抜き取った血を装置により酸素化(酸素を含ませる事です。肺と同じ役割となります。)し送血管を通して体内へと戻す。

 

以上の行為を素早く行う必要がある。

 

 

ここまでは理解していた。

 

予想通り、教授は猛烈なスピードで送血管、脱血管を装着し人工心肺装置を作動させた。

 

それとほぼ並行するように氷を用意していた。

 

(??何をするんだ??)

 

 

全く予想できない展開を固唾を呑んで見守る。

 

 

宮田「よし氷入れろ!」

重野「はい!」

 

重野先生が胸の中に氷をいれる。

そして教授が冠動脈(心臓を栄養する血管です、ここが詰まると心筋梗塞を起こします。)に切開を加え、液体を注入し始めた。

 

(???)

 

まだ状況を飲み込めていない僕であったが、すぐに理解する事となる。

 

 

ピ、ピ、ピ、、ピ、、、ピ、、、、、ピ、、、、、、、

 

心電図の波形が平坦となり、音が止まる。。

 

 

(…なるほど。)

 

 

心臓が動いたままでは手術ができない、また動きを止めさらに冷やす事で心臓のダメージを最小限にするためであった。

 

 

…しかし、生きた人間の心臓を止める事に強烈な恐怖を覚えた。

 

 

(そうか、生死がかかっているんだ。)

 

 

僕よりはるかに偉い先生が行っているから、

教授と呼ばれる程の先生が行っているから、

教科書通りの病気に教科書通りの手術を行っているから、

 

この患者さんは予定通り今日の夜には目覚めて、2週間もしたら退院する。

 

それが当然だと思っていた。

 

 

もちろん手術の成功率が低い訳ではないし、大抵は上手くいく。

 

しかし、心臓を止めて行う手術、いやそもそも全身麻酔をかける事や、体の中を狭い視野の中刃物で切る事、使用する様々な薬剤、全ての事に絶対なんてものはない。

 

どこかで歯車が狂えば危機に瀕する。

 

 

目の前で心臓が止まってやっと、医師という自分の踏み入れた領域の怖さ、そして責任の重さを痛感した。

 

 

(助かってほしい。)

 

 

素人同然で何も持たない僕には祈る事しかできなかった。

 

(5時間の手術なんて体力持つかな…)

(勉強しないとな、この手術で色々覚えよう…)

(まだまだ長い手術あるのか…いやだなぁ…)

 

そんな事を考えていた自分に嫌気が差す。

 

 

命と向き合うという事を、全く理解できていなかった。

もしかしたら目覚めないかもしれない可能性を聞かされ、今も患者さんの家族は祈りながら待っているのだろう。

 

本人は病室を出るとき、死ぬ覚悟をして出てきたのだろう。

 

 

自分の事ばかりで、一番基本的な事を忘れていた。

【医療は患者さんのためにある】

 

 

戻ってやり直す事はできない。今から立て直そう。

 

 

決意を胸に秘め、手術の経過を見守るのであった。。

 

 

一旦ここで終了させて頂きます。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

【研修医時代】心臓血管外科編 その6

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皆様お疲れ様です。

年末年始はドタバタし過ぎて一旦休止しておりました。

前回の続きを書いていきたいと思います。

 

前回の話はコチラから 

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【あらすじ】

胸部外科での研修が始まり、初めてのカンファレンスで散々だった僕。

気持ちを入れ替え勉強に励んだ。そしてついに手術の日がやってきた。

 

 

手術当日。

 

集合時間は7時半であった。

寝坊してはいけないと6時頃に目覚ましをかけたが、緊張からか目覚ましよりも早く起きてしまった。

もう一度寝ようにも、目が冴えて眠れないであろう事を悟った僕はベランダに出た。

町はまだ眠っていて静けさに包まれている。

 

時がゆっくりと流れる感覚を味わいながら、うっすらと昇り始める朝日を眺めた。

 

(…よし!)

 

 

準備を済ませ病院へと向かった。

中森先生とは手術室で待ち合わせている。

 

手術室に入る前にまずは手術着に着替える必要がある。

更衣室への扉はロックされておりIDカードを認証する必要がある。

 

慣れない手つきでIDカードをかざし中へと入った。

 

心臓血管外科の手術は準備が大変なので、他の手術よりも1時間程早く準備が始まる。本来であれば麻酔科の仕事であるが、研修医の僕にとっては全てが勉強なので見学も兼ねて早く出勤しようと前日に中森先生から助言を受けていた。

 

更衣室は数人の麻酔科の先生以外は誰もおらず静まり返っていた。

 

いやが応でも高まる緊張を抱えながら、急いで着替え手術室へと向かった。

 

先に出た麻酔科の先生の後をつけ、手術室に入る前には必ずキャップとマスクをつけないといけない事を知り慌てて探して入室した。

 

大学病院は何部屋も手術室があり各科が並列で手術を行う。

心臓血管外科は5番6番で手術する事が多く、今回は6番であった。

 

手術室に入ると中森先生が立っていた。

 

中森「おぅ、先生おはよう。ちゃんと来れたな。」

 

僕「おはようございます!よろしくお願いします!」

 

中森「よろしく。って言っても俺も見学みたいなもんやけどな。」

 

【手術】

最近ではドラマでもよく見るのでご存知の方も多いと思いますが、

手術(執刀と言う意味で)は基本3-4人で行います。

【術者(執刀医)】と術者の前に立つ【第一助手】(前立ちと言われたりします)

そしてメスなどの器具を渡す【看護師さん】(器械出しと言われたりします)

がメインとなり、後は術者の横に立つ【第二助手】がつきます。

もちろんこれに加えて、麻酔科医、技師、看護師がつくので手術自体は大人数で行います。

今回、中森先生は第二助手、僕は見学者として第一助手の横に立つ事になっていました。

 

中森「ところで、手術表の見方わかった?」

僕「??…なんですか、それ?」

 

中森「やっぱり知らんかったか、ドアのところに表あるから見てみ。」

僕「はい!」

 

急いでドアにある表を確認する。

そこには、その日の各部屋の術式、予定時間、術者、担当麻酔科医等が書かれていた。

 

中森「次からそれ見て部屋も確認しーや。まぁ来たらわかるけどな(笑)」

 

少し慣れてきたためか、中森先生もよく話しかけてくれるようになった。

何となく嬉しくなりながら、6番の欄を眺めていた。

 

僕「…!先生、これ…」

中森「ん?どうしたん?」

 

僕「9時から17時って書いてますけど?」

中森「あぁ、これな。まぁ長くても5時間くらいで終わるよ。なんかあった時用に長めにとってんねん。」

 

僕「5時間…ですか。」

すぐに終わる訳ない事は分かっていたが、改めて時間を聞くと少し不安が募る。

 

中森「初めてやときついかも知れんな。でも多分この2ヶ月の中では一番楽な方やで。」

僕「!」

 

聞かなければ良かったと心底思いながら、気持ちを切り替える。

 

 

まだ慣れない空気の中、周りを見渡す。

 

麻酔科の先生は点滴用ポンプ(精密に点滴するための機械)を5つくらい並べて薬をセットしている。その横には大きな麻酔の機械があり、気管挿管用の用意も並んでいる。

 

技師さん(臨床工学士)は人工心肺をチェックしている。

人工心肺は心臓の血流を機械に通し、酸素を含ませてから体内に戻す機械であり、心臓を手術する際には欠かせない機械だ。

ここに空気が入らないよう(血管内に空気が入るとそれにより血管が詰まってしまう事があります)入念に機械のつなぎ目部分をたたきながら確認している。

 

看護師さんは慣れた手つきで手術器具の確認を行っている。色々と話しているがさっぱり分からない。

 

場違いな空気を纏っている事を感じながらも、この空間で2ヶ月戦う事を心に誓う。

 

そうこうしているうちに患者さんが入室してきた。

 

麻酔科の先生が簡単な説明を行った後、素早い手つきで点滴をとり、麻酔をかけ、気管に管を入れる。

 

その間に無菌状態となるべく、術者は手洗いを行い、ガウン、手袋をはめ準備を整える。

 

その流れを頭の中で再確認していた時だった。

 

 

宮田「中森も早く手洗いして来い!」

 

 

既にガウンを着て臨戦態勢となった教授が後ろに立っていた。

いつもながら突然の登場に戸惑う二人。 

 

 

中森「は、はい!…おい、行くぞ!」

 

中森先生とともに手洗い場に急ぐのだった。

 

 

一旦ここで終了させて頂きます。

最後まで読んでいただき有難うございました!

ブログ再開。

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皆様お疲れ様です。

 

この2週間程は実家のことやら、大荒れの仕事始めやらで全く動けませんでした。

 

ようやくぼちぼち再開していきますのでお時間ある時に見ていただければ嬉しいです。

 

ちなみにインフルエンザが一気に流行しております。

インフルエンザの検査(鼻に綿棒入れるやつ)は必ずしも必須ではありません。

なので症状から診断される場合もあります。

 

また検査行う場合は12時間(できれば24時間)経過してないとかかっていても陰性となる確率があがります。

 

しかし、48時間を過ぎるとインフルエンザ治療薬(タミフルなど)の効果はないとされておりますので中々難しいですが検査希望されるなら24-36時間くらいでの早すぎず遅すぎずがベターです。

 

ちなみに治療薬に推奨されているのはタミフルです。新薬のゾフルーザは現時点では推奨となっておりませんし、効果もタミフルと変わらないです。

またイナビル(吸入薬)も効果に関してやや懐疑的な意見も出てます。

 

実際便利なのでイナビルやゾフルーザ処方する医師が多いのも事実ですが・・・

 

ちょっとだけ医療情報混ぜてみました^^;

 

本年もよろしくお願いいたします。

【研修医時代】心臓血管外科編 その5

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皆様お疲れ様です。

年末は忘年会ドタバタしていてアップ遅れがちで申し訳ないです。

前回の続きを書いていこうと思います。

 

前回の話はコチラから 

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【あらすじ】

胸部外科での研修生活が始まった。病棟業務に慣れてきた僕に待っていたのは、患者さんの情報を皆の前で発表し検討を行うカンファレンスだった。急いで情報を集め出来る限りの準備をする僕、そしてカンファレンスが始まった。

 

宮田「よし、研修医くん、じゃあやってくれ!」

 

胸部外科の先生がずらりとテーブルに座る。

その雰囲気に圧倒されながらも、先ほど手に入れた自信を胸に話し始めた。

 

 

僕「よろしくお願いします。」

僕「明後日の手術の方ですが、Mさん、60代の男性で、今回僧房弁閉鎖不全症(MR)を指摘されております。」

僕「現病歴としましては、特に症状なく、健診にて心雑音指摘され精査の結果MRと診断。当科に紹介となりました。既往歴としましては…」

 

滑り出しは順調、というよりここまではカルテの記載を読むだけなので楽勝だ。

話し始めると、段々緊張もなくなり威圧感も感じる事は無くなっていた。

 

僕「...であり、心機能の低下傾向を認めたため僧房弁置換手術:MVRの適応と考え手術予定となっております。」

 

一通りは言い終わった。

初めて医局に来たとき重野先生が話していたMVRが、この手術の事だったと知ったのはついさっきであった。

たまたま、目に入ったカルテ記載にMVRの文字を見つけ、少しでも勉強しているように見せようとわざわざ使用した。

 

(運もあるしこれは何とかなりそうだ)

 

発表を終え、ちらりと宮田教授の顔を見る。

教授は全く表情を変えずにモニターに映し出された検査画像を見ている。

 

宮田「...MRになった原因は?」

 

僕「原因は以前に心筋梗塞を起こしたためと思われます。」

 

MRになる原因は様々あるがその一つとして心筋梗塞後に起こるものがある。

心筋梗塞を起こすと、心臓の筋肉の一部が壊れるために、それを修復していく際に僧房弁の位置が悪くなり、MRを引き起こす事がある。

 

これは少し前に調べていたのでばっちり答えられた。

 

(よし!これでクリアかな。)

 

少し得意げな雰囲気を出したのも束の間だった。

 

 

宮田「...で何でこの術式なんだ?」

 

僕「?」

 

宮田「MVRを選択した理由は?それに弁を置換するのにどの弁を使うんだ?」

 

僕「??」

 

 

さっぱりわからない。

 

(術式?そんなもん手術する人間の決める事じゃないの?それに置換する弁なんて手術もしてない人間が分かるわけないやん...)

 

 

僕「…すいません。わかりません。」

 

宮田「はぁ...駄目だな、中森!あとで教えとけ!略語覚える前にしっかり勉強しとけ!」

 

 

薄っぺらいメッキは一瞬で剥がれ、

怠惰な自己満足と醜悪な虚栄心を見透かされカンファレンスは終了した。

 

 

皆が散り散りになり部屋を出ていく。

 

中森「…勉強してたん?」

僕「...すいません、していたつもりだったのですが…」

 

中森「どうせ、自分には関係ないとか思ってたんやろ?」

僕「...」

 

中森「術式も種類があって別に好みで決めてる訳ちゃうねん。それに交換する弁も物によって術後の経過が変わってくる。手術だけして終わりじゃない。先生やってることは学生のテスト勉強みたいなもんや。入局したつもりで研修せんと意味無いで。」

 

僕「...すいません。」

 

謝るしかなかった。

 

患者さんがどうなっていくか、何てことは自分にとって全く関係の無い事とどこかで思っていた。

 

別に手術がしたいわけではない、

別に今後ここで働くわけでもない、

どうせ2ヶ月したら次の科にいく、

 

根本にそんなネガティブな考えがある事を、

仕事に追われているという意識が否定していた。

 

 

【入局したつもりで研修する】

 

 

この言葉を胸に刻み、すぐに病院の図書館に向かい手術の確認をする。

 

中森先生の言うとおり、

術式が弁の状態等によって変わる事、置換する弁として機械弁や生体弁等種類があり、その後の経過が変わること、またそのリスクなど、少し調べるだけで必要な情報がどんどん出てくる。

 

 

(ここで頑張らないとな)

 

 

夜も更け図書館の閉館が告げられる頃、学生の面影は消えつつあった。

 

 

…そして手術当日となった。

 

 

一旦ここで終了させて頂きます。

最後まで読んで頂き有難うございました!

【研修医時代】心臓血管外科編 その4

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いていこうと思います。

 

前回の話はコチラから 

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【あらすじ】

胸部外科での研修が始まり、右も左もわからないまま病棟業務に奔走する僕。

あっという間に2週間が過ぎていった。

 

 

中森先生の後ろを追っかけながら2週間が過ぎた。

病棟への指示の出し方や、カルテの書き方等一通りの業務はこなせるようになり、また鬼門であったルートキープもそれなりに出来るようになっていた。

 

中森「先生、Nさんの点滴変更するから指示出しに行っといて。あ、あとMさんの採血、もう一回やっといた方がいいからすまんけど頼むわ。」

 

看護師「先生、ルート漏れたので取り直しに来ていただいていいですか?あと指示いつになったら出るんですか?」

 

出来るようになったら今度は矢継ぎ早に電話が鳴る。

元々電話嫌いの僕はピッチが鳴るたびに毎回ドキッとしていたが、もちろんそんな事は誰も知る由がなく...

ご飯中だろうがトイレに入ってようが兎に角なりまくるピッチにうんざりしながらも、鳴ること自体に何も感じなくなっていた。

 

(...慣れってすごいな。)

 

医療とは全く関係のない苦手を克服したことに感謝すると、

煩わしいピッチの存在にも少し親近感を覚えた。

 

 

どんどん積もっていく仕事を一つ一つこなし、片付け終えた頃に再びピッチが鳴った。

 

中森「先生、今から医局来れる?」

 

僕「…? 了解しました!すぐ行きます!」

 

 

いきなりの呼び出しに少し戸惑いながらも、急いで足を進めた。

 

 

僕「失礼します。」

医局のドアを開く、もう初めの頃のような重さを感じる事はない。

 

中森「おー、早いね。明後日手術やし先生カンファレンスの発表やってみ。」

 

僕「!!」

 

この2週間の間に2回ほどカンファレンスがあったが正直何を言っているのかはあまり分かっておらず、胸部外科での研修というより病棟雑務のプロを目指しているかのような状態であった。

 

(そうか…そりゃどっかでやらなきゃいかんよな…)

 

色々な仕事(雑務)が出来るようになっていく事にある種の達成感を覚えていた僕は、患者さんの病状の把握、治療方針の決定等、本来の医者としての業務が出来ていない事は見て見ぬふりをしていた。

 

(どうせ手術なんだから研修医に出る幕はない。)

(病状って言ったって血液検査データを追いかけとけばどうってことはない。)

 

そんな甘い気持ちを中森先生は見抜いていた。

 

 

僕「...は、はい。Mさんですよね。やってみます。」

 

中森「出来る?ってまぁやってもらうけど。」

 

 

中森先生は手取り足取り教えてくれる人ではない。

突き落として這い上がらせる、いわば獅子タイプの先生だ。

 

今ある知識で勝負するしかない…

カンファレンスまではあと2時間...

 

 

急いで病棟へ戻る。

 

僕「すいませんカンファあるんでカルテ借りていきます!」

 

看護「看護カルテは置いていって下さいね。」

 

 

看護師さん用のカルテも一緒にファイリングされているため、一度医師用のカルテをファイルから取り出し、ひもで括って持っていくという煩わしい事をしなければならない。

 

(何で電子カルテじゃないねん…)

 

普段は気にも留めていないのに、自分が急いでいる時だけ文句を言いたくなるのは悪い癖だ。

 

決していいとは言えない手際で急いで準備を済ませ医局に向かった。

 

 

医局についてまずは病態を把握しにかかる。(本来なら分かってて当たり前なのだが…)

 

Mさんは60代の男性で【僧房弁閉鎖不全症】という病気だ。

 

【僧房弁閉鎖不全症】

心臓は左心房、左心室、右心房、右心室と4つの部屋に分かれています。

心房→心室へと血液が流れ、右心室は肺に、左心室は全身に血液を送る役割をしています。

血液の流れを書くと、

右心房→右心室→肺→左心房→左心室→全身(→右心房)といった流れになります。

各部屋は弁という扉で仕切られていて、これにより血液の逆流を防いでいます。

僧房弁は左心房と左心室に間にある扉です。

閉鎖不全症というのは、扉の立て付けが悪くなった状態で、きっちりと仕切る事が出来なくなってしまいます。

なので僧房弁閉鎖不全症は、左心室から全身に血液を送る際に、一部の血流が左心房に逆流してしまう病気です。

これを放置すると心臓に負荷がかかり徐々に心機能が低下し心不全となってしまいます。

 

 

現在の心機能や行う予定の術式、血液検査結果などを頭に叩き込み、考えられる準備は万全となった。

 

出来る事を全て行うと、自信が湧く。

(これは意外とうまくいくんじゃないかな…)

 

少し余裕の表情で教授の到着を待つ。

中森先生は少し怪訝そうな顔でこちらを見ているが、気づかないふりをした。

 

ガチャ。

 

宮田「さぁカンファレンス始めようか!」

いつもの通り、 いきなり号令がかかる。

 

僕「よろしくお願いします!」

 

宮田「おぅ、研修医か!じゃあよろしく!」

 

 

…そしてカンファレンスが始まった。

 

...2週間というちっぽけな経験とともに。

 

 

一旦ここで終了させて頂きます。

最後まで読んで頂きありがとうございました!