Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

自分の善を押しつけないこと

『川の上で』(2001年)ヘルマン・シュルツ作 渡辺広佐訳 徳間書店

今日の一冊は、BOOKOFFで気になって連れ帰ってきたしまったコチラ。

あとがき入れても、わずか150ぺージ。薄めの本って、すぐ読み終えちゃうからなんとなくあまり手に取らないんですよね。でも、こちらはあらすじが気になって。

 

とってもよかったです。

大切な視点、人としてありたい姿勢を思い出させてくれる。時々読み返そう、そんな風に思った物語でした。

 

舞台は、1930年代の東アフリカ。ドイツ人宣教師のフリードリヒが留守の間に、妻と娘が熱病にかかってしまい、妻は亡くなってしまいます。残された衰弱した娘を大きな町の病院に連れていくため、父娘が小舟で川をくだる旅に出る、というもの。厳しい大自然の中の川下りはスリルあり!村人たちとの交流によって、徐々にフリードリヒの心に変化があらわれていくさまも、とおってもいいんです。

 

わずか(?)5日間の物語。でも、5年とも思えるような濃さと心の変化がこの5日間に起こります。

 

宣教師ものって、改宗させようっていう押しつけがあるから個人的に好きじゃないんですよね。まあフリードリヒには、キゴマという村の王ウジビムというアフリカ人の友もいて、決して嫌なタイプの宣教師ではないんです。それでもね、やっぱりキリスト教を宣教したいわけだから、アフリカの村の人たちのシャーマニズム的なものには眉をひそめるし、ましてや自分の娘に村人から何か治療的なものを施されるのはどうしても許せないんですね、信条的に。いまわしい魔術だと信じている。信条はときには大事だけれど、でも、なにごともこだわりすぎる、執着しすぎると見えるものも見えなくなってしまいますよね。村人たちがしてくれた親切に感謝するどころか、疑心暗鬼になってたフリードリヒなのでした。

 

そんな彼でも、娘を助けたい一心で、徐々に彼らの言うことに耳を傾け始めるんです。

 

たとえば、娘の意識がなくても、彼女に話しかけ続けることという助言。

また川の上に出たら、たくさん話をしてあげてくださいね。話を聞くことで眠りからさめますから。それが、あなたがしてあげられる一番のことよ。だって、ねむっているときはこの子はひとりぼっちなんですから。今、この子をひとりぼっちにしてはいけないわ……(P.79)

 

そうそう、無意識下で聞いてるんですよね。そういえば、“お布団の中で寝かしつけ時に絵本を読んでる途中で子どもが寝ちゃっても、ちゃんと最後まで読んであげて下さいね。寝ながら聞いてるから。”と昔言われたことを思い出しました。昏睡状態の人にも何年も話しかけ続けると意識が戻るという話も聞きますよね。ただ話しかけるのではなく、ここではフリードリヒが自分自身の物語を聞かせたということが大切で、娘の命をつなぎとめたんです。物語の力、スゴイ!

 

また、もう一つ印象的だったのは、どの村でもこの西欧人の親子を受け入れてくれたところ。女性たちは献身的に病気の娘の世話をしてくれる。どの村でも。

これ、もし逆に西欧の村にアフリカ人の親子が突如訪ねてきたらどうでしょう?あんな風に歓迎するかしら?しかも、感染症かもしれない病人抱えてるのに。考えてしまいました。

 

西欧人が施す彼らの善……。この物語を読んでいて思い出したのが、大学を卒業する春休みにネパールに1か月ボランティアに行ったときのこと(はるか昔)。それまで私は、西欧人はこういうボランティアに積極的で意識が高くて、なんて素晴らしいんだろう!と思ってたんですね。こういう場所にボランティアに来るくらいだから、フレンドリーで優しい人が多くて。

 

でも、1週間後にはだんだん印象が変わってきました。日がたてばたつほど、例えば毎日同じダルカレーの食事に飽きるなど、異文化に順応できなくて苛立ってくるんです。現地の人たちに同情しているときは優しかったけれど、それは同時に彼らを見下してるからくる優しさでもあったんだ、と気付いたときはショックだったなあ。

 

現地の学校でのボランティアもしたのですが、“あそこの学校はいい!Westernized”って言うんです。いい学校の基準が西欧化してるかどうか。彼らが原始的と呼んだ学校は、私の目にはいいなあとうつってたので、彼らの感想が当時の私には衝撃的で。最初の印象が好印象だっただけに、異文化への興味・好奇心はあれど尊重がないことに失望してしまいました。いや、最初はあったんです、最初は。でも、根底に西欧文化が最善と思ってるから、だんだんそれが出て態度が横柄になっていった。自分の善を押し付けずに、相手にとっての善を施すって難しいですよね。

 

さて、そんなフリードリヒが現地の人々と本当の意味で知り合ったとき、彼は現地の人たちに洗礼を施すよりも重要なことがあることに気付かされるのです。

さあ、それは一体どういうことだったのか。

 

ぜひ一緒に5日間の川下りをしてみませんか?私たちにとっても、きっとそこには気付きがいっぱいです。

多くの問いかけをくれる物語

メッセンジャー』(2014年)ロイス・ローリー作 新評論

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今日の一冊は、森の表紙とタイトルが気になって手に取った一冊。映画化もされた『ギヴァー 記憶を注ぐ者』シリーズ四部作の第三作目。それを知らずに読み始めてしまったのですが、突然これだけ読んでも大丈夫でした!

 

うーむ、これは……非常に問いかけられる物語です。

この謎は?これは結局何だったの?など色々回収されないまま、分からないまま終わるところもあるので、スッキリしないという人もいるようです。が、私はだからこそ読んだ人それぞれが色んなことに当てはめて考えられる、問いかけられる物語になってるなあって思いました。読書会の課題図書とかにして、話し合ってみたくなる、そんな物語。

 

舞台は、人々が助け合って平和に暮らしている森に囲まれてたとある村。

 

森に囲まれて、というと森の恵みを想像していたのですが、この物語に出てくる森は敵対心を出してくる、人を寄せつけないこわいところ。なぜ森がこうなってしまったのか。この物語の中では、その謎は明かされません。自然を大切にしない現代人への警鐘?徐々に変わっていく村人たちの心の中の悪意を反映してしまった?分かりません。

 

主人公の少年マティは、目の見えない老人と血は繋がってはいないものの、まるで親子のように暮らしています。村の人々は、もともとは遠いそれぞれの故郷の村でツライ思いをし、逃げてきた人たちなんです。自分たちもツライ思いをしてきたので、逃げてきた人をいつもあたたかく迎えていたのに、あるときから村に壁を作り、これ以上人を受け入れないということを決定してしまうんですね。

 

なぜ寛容だった人々は不寛容へと変貌してしまったのか。

 

そのカギを握るのが、トレードと呼ばれる異様な集会。ここでは、何かと交換することで人々はほしいものを手に入れられるのですが、一度手にしてしまったら、次は......と欲望が止まらなくなってきているようなのです。何をトレードしているかは、謎に包まれたままなのですが、モノを渡しているわけではない。どうやら、自分の心の中にある良心と引き換えにしてしまってるようなのです。どんどん思いやりを失っていく人々。

 

ここは、本当にゾッとします。現実世界でも私たちは自分たちでも気づかないうちに、実は色々なものをトレードで失っているんじゃないか、と思わされたから。競争、偏差値重視の教育で失ったもの、ネットで情報が簡単に入手できるようになったことで失ったもの、便利と思える家電生活で失ったものetc.etc.

 

何がコワいって、失ったものを当の本人たちが自覚していないところなんですよね。

 

村に壁を作ることもヒドイと思うけれど、じゃあもし自分の住んでいる地域に難民が押し寄せてきたら?複雑な思いなしに、本当に歓迎できる?数人ならいいけど、次々と来たら?と考えると、他人事じゃないです。

 

ただ、この後四作目が発刊されていて、そこでトレードの謎も明かされるみたいなので、上記感想は、あくまでもこの巻だけを読んで感じたことです。

 

ラストは個人的には、そうであってほしくない終わり方でした。

ネタバレに触れるので、ここから先はネタバレOKな方だけお読みください。

 

 

 

 

一人の犠牲が世界を救う。

そこにすごく感動する人もいるのだろうけれど、西欧的だなあ、って個人的には残念に思ってしまいました。キリストになぞらえてるのかな……。

日本でも、ちょっと前のアニメの世界では、典型的なラストエンド。

 

でも、時代は令和。

新海誠監督の『天気の子』が提示したラストは画期的だったな。

誰かが一人犠牲になって救われる世界は......避けれるなら避けたい。

 

やっぱり1巻から読もうと思います。

色んな問いかけをくれる物語でした。

絶版には惜しすぎる物語がまたもや

『トーマス・ケンプの幽霊』(1976年)ペネロピ・ライヴリィ作 田中明子訳 評論社

ああ、1970-80年代の評論社の児童図書館・文学の部屋シリーズ好きだな。絶版とは悲しいです。が、地味と言えば地味だから仕方ないのかなあ。スピード感ある盛り上がりがないと今の子たちには難しい?いや、手渡す人さえいれば、きっと響く子はいると思うんです。今日の一冊は、そんな手渡したいと思った一冊。

 

ちなみに古書で探したら、1万2千円でちょっと(かなり)手が出しづらいお値段でした。図書館って本当にありがたい存在だな、としみじみ。

 

今日の一冊の幽霊は、幽霊といっても姿は見えないポルターガイストもの。エクソシスト(悪霊払い)が出てきたりするのですが、おどろおどろしさや、ゾッとする怖さは全くないんです。勝手に幽霊の弟子に指名された主人公のジェームズにとっては、ひたすら迷惑ではあるけれど。自称魔術師の幽霊であるトーマス・ケンプも、現代においては空回り。それが、どことなくユーモラスなんですよね(表紙絵の印象はこわいけど、内容はぜんぜん!)。だから、こわがりさんでも読めます。

 

ところで、この本を手に取ったきっかけは、zoomであったこちらのイベントで取り上げられていたから↓

勝手におすすめしてきてくれたPeatixよ、感謝!

https://the-continuity-of-life-2024-1-13.peatix.com/

 

とおっても興味深いお話でした!

 

こちらで取り上げられた『グリーン・ノウ』シリーズも、『時の旅人』ももともと大好きで。ただ、『トーマス・ケンプの幽霊』だけは初耳だったのです。この三作はどれも英国のタイムファンタジーで、アニメでよくあるタイムファンタジーものとは違い、リアリティがあるんですよねえ。そのリアリティを“身体感覚”と“生の継続性”というキーワードで説明されていました。おお、私が感じていたけれど、言語化できなかった思いはこれだったのか!と腑に落ちました。

 

その中でも興味深かったのは、『グリーン・ノウ』のルーシー・ボストンと『時の旅人』のアリソン・アトリーは体験に基づいて書いていて、中でもアトリーのほうは、“実際に体験したことを書いている”(=つまり自分自身が時を旅した。空想じゃない)と主張しているところ。……ですよね!すんなりと、その主張受け入れられるくらい、リアリティありますもん。

 

一方で、ペネロピ・ライヴィリは資料を参考にそこから想像をふくらませているそう。

 

うんうん、資料が物語を語ってくれることもありますよね。

この物語の中でも、主人公のジェームズも幽霊の手がかりがほしくて図書館へ行くのです。さすが地域の歴史を残している図書館。ビバ図書館。

 

ところで、主人公のジェームズの両親は幽霊なんて信じてくれないタイプなので、非常に孤独なんです。唯一友だちのサイモンには話せたものの、半信半疑な様子に傷つけられところに、庭のゴミ捨て場で見つけたのが、昔の住人の古い日記。こういうのが出てくるところが何百年も前からある家に住み続けるイギリスならでは、ですよね。

 

誰も分かってくれない

 

そんな思いは現代の人たちでも、誰しも抱いたことはあるのではないでしょうか?

 

そんなジェームズが見つけた日記には、驚いたことに過去にジェームズと同じくトーマス・ケンプに悩まされた、アーノルドという少年のことが書かれていたのです。時空を超え、同じ経験者としての理解者を得たジェームズ。

 

ああ、生の継続性。命のつらなり。

 

悠久の時の流れの中にいるという感覚に、ゆっくりと心が感動で揺さぶられるのです。

 

そして、もう一つ。この物語の好きなところは、自然描写が美しいことなんです。

日の光、木々の影、刻々と色を変えていく空模様。風や川の冷たさを感じさせてくれる。そう、身体感覚。この自然もまた過去からつらなっている。サトクリフを読んだときにも同じような感覚になったのを思い出しました。

 

さあ、ジェームズはどうやって、トーマス・ケンプと対峙していくのでしょう?

このトーマス・ケンプがねえ、また色々な感情をよびさましてくれる存在でした。

最後の最後に、いままでと矛盾するようなお願いを彼がしてくるのですが、私にはとても納得でした。そうか、そうだったのか。

すごい秘密が隠されてるとかそういうのではないんです。ただ、幽霊なのにすごくすごく人間味を感じて。愛おしいとすら、ちらりと思ってしまいました(ちらり、とね。大迷惑だから)。そして、彼のあの世での幸せを願わずにはいられませんでした。

 

ぜひ、図書館で探してみてください。

✨感謝企画:あなたのためだけの3選✨

 

いつもブログ読んでいただき、ありがとうございます。

 

おかげさまで、Facebookのほうの

大人のための児童文学

ページのフォロワーさまが800名を超えました!その感謝として、『あなたのためだけの3選!』をさせていただきたいと思います♪

 

ふりかえってみると、埋もれている隠れた名作たちを発信したい!そんな熱い思いから、2016年よりブログを始めてはみたものの、途中何度も気持ちが折れそうに。

 

一般ウケするわけでもないニッチな分野、ネットの大海の中で誰が見つけて読んでくれるんだろう?児童文学好きの友だちに声掛けたら10名くらいはフォローしてくれるかな?そんな感じで、最初に30名くらいいったときは、とても嬉しかったのを覚えています。とはいえ、あまり数にこだわることなく、たった一人にでもその物語を必要としている人に届けばいいな、そんな気持ちで地道にコツコツと続けていました。みんな何かを始めるときは、ゼロからのスタートですもんね!

 

フォロワー数はあまり気にしませんでしたが、それよりも落ち込んだのは、素晴らしい物語たちの良さを言語化しきれない自分の文章力のなさ。それでも、分かりやすいと言ってくれる人がいたりして、読書の敷居を下げるのが私の役割なのかな、なんて思うようになってきました。THE☆開き直り(笑)。

 

そんな感じだったので、2021年に『あなたのためだけの選書』をしたときに、予想以上に全く知らない方々から希望がきて驚き、嬉しかったんですよね。正直、大変だったけど。

jidobungaku.hatenablog.com

 

私はついつい、あれもこれもとたくさん紹介してしまいがち(だって、この世は素敵な本であふれているんですもの)。なのですが、今回は3選に絞りたいと思います!

あんまり多く紹介されすぎると、どれを手に取っていいか分からない。紹介は1冊くらいでもいい、というお声もいただき。でも、1冊には絞り切れないので、せめて3冊は選ばせて~(笑)。

ご希望の方は、以下をお読みください。

 

①応募方法:FacebookInstagramのDMもしくはotsujishino☆gmail.com(☆を@に変えて下さい)まで。タイトルに「3選希望」と入れてください。

 

②いただいたメールアドレス宛に簡単な質問票をお送りするので、少しあなたのことを教えて下さい。それに沿って、心を込めて選書させていただきます。(無料です)

※質問票への返送がない場合は、選書は難しいのでご理解ください。

 

③3選をデータで送るか郵送がよいかお選びください。応募人数によっては、少しお時間いただくこともあるかもしれません。ご理解ください。

 

自分でいうのも何ですが、私は直観力はあるほうでして。この物語はこの方に!と本のほうが呼んでくれるというか。エネルギー注いで選書します!

 

あなたのためだけの3選に興味はあるけど面識ないし、コメント欄で交流したこともないしなあ......ともし遠慮されている方いたらご心配なく。前回もそうでしたが、面識ない方からのご希望があると“ああ、本当に画面の向こうに読者がいたんだ”と私も嬉しいんです。

 

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

 

想像力の欠如を自覚する

『ただ、見つめていた』(2017年)ジェイムズ・ハウ作 野沢佳織訳 徳間書店

※2月22日(木)・23日(金・祝)のイベントで“憧れの暮し”テーマに読書会開催します!詳細はコチラ↓

jidobungaku.hatenablog.com

 

今日の一冊は、後味はそんなによくはないけれど、“外側から見えていることだけが全てじゃない”ということを実感できる一冊。

 

ロングセラーだという一文に惹かれて、図書館で手に取りました。短めですぐ読めます。家にお迎えして、何度も読み直したいか?と問われれば、うーん、なのだけれど、図書館(特に学校)には置いててほしいなあ、と思いました。

 

なぜか。

 

SNS時代の今、自分も含め、あまりにも“点”の情報だけで全容を決めつけがち。だから、たまにこういう物語に出合うと、ハッとするんです。登場人物それぞれの視点で話が変わるので、混乱する、分かりにくい、という声もあるようですが、人の心の中って、やっぱりその人の視点にならないと分からないからなあ。だから、図書館には置いてほしい。

 

舞台は、とある島の夏のビーチ。いつも同じ場所で、ただただ見つめているミステリアスな少女がいます。少女が眺めているのは、いつも優しく妹の世話をしている兄のいる幸せ家族、そして金髪イケメンのライフガードの青年。二人とも彼女の視線に気づいてはいたけれど、自分の抱える問題でいっぱいいっぱいで関わろうとはしていなかったところに、事件が起き……。という内容。

 

幸せそうに見えても、誰がどういう悩みを抱えているかなんて、見えないことも少なくない。他者への想像力がただでさえ欠如していて、点で判断して分かった気になりがちだからこそ、こういう物語を読みたいと思うのです。

 

で、”想像力の欠如”といえば、話は飛びますが......。

テレビドラマで実写化された漫画原作者が、脚本改変を巡るトラブルで命を絶った、という痛ましいニュースをご存知でしょうか。あまりドラマ見ないのに、珍しくTverでこのドラマは見ていて、トラブルの経緯を見守っていた中でのニュースだったので、もうショックでショックで。

 

日本にある色んな問題が、この事件に凝縮されているような気がして。クリエイターを軽んじる日本の風潮、大企業の体質及び構造問題、弱いものへの責任転嫁、問題をすりかえる風潮、忖度、コミュニケーションの断絶、SNS問題などなど。色んな記事を読んでは、考え、自分に問い続けています。

 

テレビ局側の血の通わないコメントには、本当にがっかりし、憤りすら覚えました。でも、危機管理的にはあれは正しいのだとか。正しい......それはときに冷酷ですね。

 

そもそも原作があるものの実写化には、こういったトラブルは珍しくないそう。トラブルが多いと知りつつ、それでもオリジナル脚本によるドラマではなく、漫画原作が企画を通りがちなのは、企画判断側にも想像力が欠如しているから、という記事を読み、ナルホドなあって思ったんです。時間もない、オリジナルの企画を発案されても、提案された側にはイメージしにくい。その点、漫画原作ものは読めばイメージが分かるし、人気も保証されている。視聴者側も作り手側にも想像力が著しく損なわれているから、既知のもの(原作もの)がドラマ化しやすい、と。

 

想像力の欠如

 

これなんですよね。想像力さえあれば、テレビ局側はあんなコメントは出さなかったはずだし、そもそもこのトラブル自体起こらなかった。いや、トラブルは起こったかもしれないけれど、少なくとも歩み寄りはできた。

 

まずは、“ああ、自分も想像力が欠如していた”と自覚するところから。だから、私の場合は本を読む。今日の一冊は、そんなことを自覚させてくれる物語でした。

 

ご案内:アートなイベントで読書会(修正あり)

江ノ電を窓から眺めながらの読書会

このたび2月22日(木)・23日(金・祝)に行われる“アートな暮し”をテーマにしたイベントに出店します。

 

素敵なアートな参加者たちの中で、私だけアート感なし。紛れ込んだ一般人感ハンパないですが……。

物語に出て来そうなお庭と館での開催ですので、ぜひ遊びにいらしてください。

脇には江ノ電がゴトゴト走るのどかな環境が、とおっても素敵なんです。

(※壊れやすいアンティークの多い会場側の都合で、お子様は不可なんだそう。ごめんなさい)

 

読書会以外にも、ゆる読書相談や、書籍・雑貨の販売もこじんまりとやる予定。

詳細はコチラ↓

 

 

以下は私担当のところのご案内になります↓

 

 

【読書会テーマ:憧れの暮し】

読書会ってなあに?聞いてるだけでもいいの?という初めての方も

マニアックなことが話したい!という方も

いずれも大歓迎です。

 

誰かと話すことで、自分でも見えていなかった自分の本当の望みに気づいたり。

口に出すことで、憧れの暮しに一歩近づいたりするから不思議なんです。

この読書会に参加することが、憧れの暮しへの一歩につながるかもしれません。

 

それに、一期一会の知らない人同士って、案外本音を話しやすいもの。

ホラ、旅先で出会った人とはいきなり深い話ができる、あの感じ。

小人数で、あなたの憧れの暮しについて語りあってみませんか?

以下の内容で2冊ご紹介ください。

 

①あなたの憧れ、目指したいのはどんな暮し?あなたの憧れが詰まった本をご紹介ください。写真集、絵本、物語、エッセイ、漫画、本のジャンルは何でも。

(持参するのが重ければ、表紙画像の紹介だけでも大丈夫)

 

②もし何の制約もないとしたら、してみたい暮しは?過去の世界、異世界無人島、宇宙なんでもあり。非現実的だっていい、あなたの“究極の憧れ暮しが描かれた本をご紹介ください。

 

■日時:2月22日(木)13:00―14:30

           2月23日(金・祝)10:30-12:30

 

■場所:garden&spaceくるくる 2F

       https://kurukuru2014.jimdofree.com/access/

 

■参加費:1,200円(デリドコさんのお茶菓子付)

※要事前予約(DMまたはotsujishino@gmail.comまで)

 

■持ち物:紹介する本2冊(上記参照)

 

■当日の流れ:軽く自己紹介→各自本の紹介(一人約5分)→紹介された本についてフリートーク→感想

 

※宗教やネットワークビジネス勧誘目的の方はお断りします

鎌倉観光もできるし、よかったら。

お待ちしております。

 

【カードセッション&ゆる読書相談】

※ごめんなさい。こちらは諸事情により中止します。

色々理由はあるのですが、自分の中にわきおこってきた”違和感”を大事にしたいと思います。もし、検討してくださっていた方がいたら、気軽に普通に相談してくださいね。

読書相談は無料でいつでもご相談にのります。

 

 

むなしくなったりするけれど

関東は初雪!まるで水墨画の世界

少ない雪でもミニミニ雪だるま~

今日は関東では初雪!もうもう子どもたちは大はしゃぎです。

 

私はといえば、先週右手指を骨折してしまい、利き手なのでほぼ何もできず……これをいいことに何もしてません(ニヤリ)。いや、本当のことをいうと、最初はスマホ三昧でした。左手指一本で操作できて便利だし、とにかく痛くて痛くて、最初の頃は思考停止で読書どころではなく、ぼーっとくだらない動画眺めているのが正直ラクだったのです。無意味にYouTube shortを見続けたり。スマホ見てるとあっという間に一日が終わる。『モモ』に出てくる時間泥棒のごとく。ダメ人間まっしぐら~で、夫に心配される始末でした。

 

でも、雪と読書ってあいますよね。ちょっとずつ痛みもおさまってきたので(全治2-3か月らしいけど)、雪降る今日はおうちでぬくぬく本を読みました(ダメ人間ちょい脱出!)。

 

というわけで、今日の一冊はこちらを再読しました。

『雪のひとひら』(2008年)ポール・ギャリコ作 矢川澄子訳 新潮文庫

ちなみに、装丁は、現在の文庫版より単行本のときの茶色ベースの地味なときのほうが個人的には好きでした。

 

以前読んだときは、学生時代、多分中高のとき。正直、この物語の良さが分からなかったんですよね。ふーん、って感じ。なぜ、母がいたくこの物語を気に入っていたのかも分からなかった。でも。いま、自分が当時の母の年齢になって再読してみたら……沁みます。女性の一生を雪のひとひらに例えた物語。特に終盤では涙が出てきました。

 

おおいなる創造主の手によって造られ、そのもとへ帰っていく私たち。

何の目的で私たちは造られ、何のために生きているのか。

 

分からないまま、それでもこの世のさまざまな美しいものに心から感動したり、つらい目にあったり、ときには無気力になったり。

 

臨終のときにあっても、雪のひとひらは虚しさに襲われるのです。

 

こうして死すべくして生まれ、無にかえるべくして長らえるにすぎないとすれば、感覚とは、正義とは、また美とは、はたして何ほどの意味をもつのか?(P.92)

 

それはそれは悲痛な叫びです。臨終のときまで、むなしい思いにとらわれていたけれど、それでもいままでの人生が走馬灯のように彼女をめぐったときに彼女は悟るのです。自分の全生涯が奉仕を目ざしてなされていたことを。創造主から片時も忘れられたり、見放されたりしていなかったことを。

 

最後のほうまで虚しさに襲われているからこそ、説得力があります。

そして、救いがあります。

 

雪が降ったからこそ、再読しようと思い立った。雪からの思いがけないプレゼント。

これぞ、大人のための児童文学でした。ぜひ。