シネマチップスに憧れて

ジジイになって来て、見た映画を忘れてまた見る、ということが増えてきた。名作ならよい。だが、好きでもない映画は大抵忘れているので、半分以上見てからようやく気がつくことがある。それを防ぐために、自分のための映画備忘録である。採点もしたが、これは単純にもう一度見る価値があるかどうか、という個人的な指標でしかない。だから総ての記事がネタバレ含む。未見の人は読まないように。

バイロケーション 裏 2014年/日本/121分/80

「表」と「裏」の違いは、2分しかない。しかし、意味するところは大きく違う。

なんでこちらが「裏」なんだと思ったりもしたけれど、残念ながら「表」があってこそ「裏」が輝くのかもしれない。この「裏」を最初に見たら、また、こちらしかなかったら、甘いだけのラストで、凡庸な映画っていう感想になったかも。「表」の強烈なラストを見たあとなんで、本当にこちらのラストに救われる。

でもね。

二つの悲劇があって、救われるのは一つだけなの。両方救われないよりは、片方でも救われた方がいいに決まってるんだけど、やっぱり二つ救って欲しいの。

自分がバイロケーションだと知った時、自分の人生全てを投げ出して、オリジナルに譲ろうとする。たしかにオリジナルの方も、ここでバイロケーションの気持ちを大切にする余裕があったら、絵でも成功したんだろうけど、まあ、人間そこまで寛容にはなれないんだよね。

オリジナルも同時に自分の人生全てを賭けて絵に取り組む。本当はバイロケーションの方だったのに、入選の連絡を聞いて喜ぶオリジナルの姿、そして自分の絵じゃないと知って混乱する姿。もう、涙なしには見られない。

かたや、愛する人と幸せに暮らし、更に自分が全てを賭けた絵の世界でもあっさりと栄光を持って行ったバイロケーション。そりゃ複雑だわなあ。

あの時ああしておけば、というのは「バタフライ・エフェクト」なんかでも取り上げられてた主題だけど「バタフライ・エフェクト」では感じなかった、妙なリアル感で迫ってくる。

自分ならどうする? 自分なら、本当に自分を犠牲にしてでも相手の幸せを守ることができる?

バイロケーション 表 2014年/日本/119分/70

暫く更新してなかったけど、この映画に掛かりっきりであった。もう一度観るかどうかって基準でブログ始めたのに、もういきなり何度も見返してしまった。

いつも自分の記事書く為、というよりも、同じ映画を他の人はどんな風に見てるのかって考えたりして、いろいろと他のブログを読むんだけど、今回は題材が語りたくなるタイプの映画なので、本当にいろんなところでいろんな素晴しいブログを発見した。

そしてみんなそれぞれの素晴しい意見を読ませて貰って、同じ映画を一本見てたら、話題ってきっと尽きないんだろうなあ、と思ったりした。友達居ないけど。

さて、バイロケーション表。wowowの分類では「ホラー」になってるが、この映画はホラーではない。でも、ラストは最高にホラー。

ハッピーエンド以外はクソ映画だと決めつけてるワタクシにとって、本来ならとても許容できないラストである。しかしながら、そこに辿り付くまでのプロセスや水川あさみさんの魅力もあるんだけど、切って捨てることは出来ない、哀しいラストである。もう涙なしでは居られない。

制作陣がホラーを意識しすぎたのか、せっかくの題材を逆に生かしきれてないって感じがした。もう一人の自分、ということがテーマで、しかもその相手が殺しに来る、という設定。いや、ま、ほんとにコワイ設定なんだけど、それならそれでそっちに徹すればいいのに、人間ドラマ入れちゃうから、却って粗が見える。

何度も見直したくなる映画なんだけど、何度見直しても「夢落ち」に通じる卑怯な描写がいくつもある。都合のいい説明だけあって、肝心なところはスルー。せっかくのバイロケーションという素材を生かしきっておらず、サスペンスとしては全くのお粗末な二流。

しかし、この映画で観るべきところはそこじゃない。

愛するべきものの為に、守るべきものの為に、自分は何ができるだろうか。

人生のテーマを重く突き付けて来るのであった。

「裏」へ続く。

書けないラスト 青の寝室 2014年/フランス/76分/60

思わせぶりなタイトル付けちゃったけど、あまりに衝撃的過ぎてラストを書かないのではなくて、そもそも書くべきラストがない、というか。

いきなりエロい展開で始まるこの映画は、油断してみてるとさっぱりもってストーリーが分らない。


「現在と過去を交錯させながら映画の3分の2が過ぎないと事件の全容が見えてこないミステリアスな構成」
青の寝室|映画|WOWOWオンライン
なのだ。

ハリウッドもやる時は徹底してやるけど、基本的には見やすいので、こうした疲れるタイプの映画は少なくてストーリーをちゃんと把握しようと思うだけで、疲れる。でも、嫌いじゃない。おいでおいでされる方がよっぽど警戒してしまう。

ただ、ハリウッド映画で慣れている、ちゃんとしたラスト、答え合わせができるスリラーに慣れていると、思いっきり外される。まあ、一応、女はコワイよ~って示唆するセリフはあるんだけど、何がどうなっているのか、説明は全くない。

ジグソウ描いた「ソウ」なんか、最後の5分で見事な答え合わせをしてくれるのに、こっちはほとんど何もないので、何が起こったのか分らないんだよね。

でもいい。80分に滿たない、という時間がなんかこう、身の程弁えた、という感じで好感あり。何度も見直せようという魂胆まるだしの混乱映画で時間が長い映画はシンドイもんな。といいつつ、多分もう見ないけど。

ストーリーは全く目に入りません 青い珊瑚礁[吹替補完版] 1980年/アメリカ/105分/60

ブルック・シールズが全くもって美しい。

子供たちだけで無人島では生活できないとか、教えられなくても人間ってやっぱりできるのだろうか、とか、出産はどうやったのかとか、そもそもなんで無人島に二人だけになったのか、こう、なんかいろいろと思い浮かびそうになるが、そんなことは全くどうでもいい。

この映画の見どころは、ブルック・シールズに尽きる。で、まあ、それでいいじゃん、という映画だ。ブルック・シールズが見たかったら、この映画を見て、見たくなかったから見なくてよい。そういう潔さは全くもって素晴しい。

日本のアイドル映画もまあそういうことなんだけど、ブルック・シールズと覚悟が違うよね。ま、そりゃ裸になるだけが覚悟かって言われればそれはもう違うんだけど。

ほのぼのはすべてを許す? あさひるばん2013年/日本/111分/10

くそ~。最後まで見てしまった。飛ばしながらだけど。f^_^;

もうね。そりゃコメディということは分かってるよ。グタグタ言うなっていう映画なのは分かってる。んでもさ、この三人が同級生ってどうなの? あり得ないでしょ、もう。マンガなら好きに書いてもいいけど、一応映画なんだからさあ。もうちょっと気使ってよ。しかも、それぞれはちゃんといい役者だから、余計になんか違和感が。

おまけに高校生で妊娠してその父親探しってのはまだしも、その父親がどうも気に入らん。しかし、俺も、カワイイ子が犯罪者と付き合ったら文句言うし、かっこいい奴と付き合ったら文句言うし、いったい、誰と付き合ったら文句言わんのや。俺や。

ほのぼの、は決して嫌いではないが、ほのぼのだから目をつぶれる限界を越えてる。もうちょっとなんとかならんかったんかなあ。

人情描いたらなんでもええの? 笑いを狙ったら許されるの?


あさひるばん|映画|WOWOWオンライン

凡庸な佳作 マイ・ブラザー 哀しみの銃弾013年/フランス/アメリカ/128分/75

弟刑事、兄犯罪者、確執、家族、絆。まあこんな感じでストーリー考えたら、誰もがこんなストーリーを考えるはず。ストーリーはかくのごとくありふれたもので展開もラストも、まあお約束の定番。

しかし、自分のようにストーリー重視で映画を見る人間に取ってみても、やはりストーリーだけではなく、俳優の演技やその描き方など、水準を大きく越える場合は、やっぱり感じるものがあるね。

ダメな兄役のクライヴ・オーウェンがすっごく良かった。特にラストの表情。もちろん弟のマリオン・コティヤールのギリギリのところで兄を救ってしまうやるせなさもきっちりと表現していて、お互いの確執、絆を全編を通してこちらに問いかけ続けるからこそ、このラストの表情が際立ってる。それに対する弟のしぐさ。う~。

いい映画を見た時は、ラストのクレジットもじっくりと見てしまうよね~。

それにしても、悪い奴にはなぜいい女が付くのか? どうしても納得いかん。と思ったりしたのだが、考えてみたら、自分も全くそうであることに気がついた。

いい女を落とすコツ。ワガママでどーしょ~もない男になることである。

素直な心はどこ? 夜叉/1985年/日本/127分/60

高倉健は素直にかっこいいし、ビートたけしも素晴しいし、いしだあゆみは綺麗だし、田中裕子も魅力的だし、小林稔侍もいい味出してる。

日本を代表する役者が豪華に揃って、みどころ満載なんだけど、サスペンス映画ばっかりみてて心がひねくれてるのか、どうにも素直に楽しみにくい。

高倉健演じる修治は、人を殺している。最初に出てくる思わせぶりなシーンでははっきりとは分らないけど、ラストで出てくる回想シーンでは、はっきりと殺しちゃってる。で、そういった業を背負った人間が「かたぎ」の世界に入ってくる。なに? ヤクザだから人を殺しても捕まらないのか? なんかその辺の描写がちょっと突き放されててすごく気になる。

おまけにそんなヤクザの所業を知ってか知らずかいしだあゆみ演じる冬子が惚れて一緒になるんだけど、修治はあっさり裏切って田中裕子演じる螢子抱くんだよね。

私と過ごした15年は一体なんなの? 冬子は涙ながらに訴えるのだけれども、俺も画面に向かって訴えていたのであった。

まあ、この男と女のことは理屈ではないし、たとえ極道の嫁だろうが、そりゃも~、好きになる時は好きになるので仕方ないのかもしれないけど。

ダメになったからといって、あっさり冬子の元に戻るのもどうなの? いいの、これ?

最後、螢子が修治の子供を身ごもった、という思わせぶりな展開に、螢子が悪魔の微笑みを見せて、田中裕子の底力を見せるんだけど、でも、それ本当に修治の子なの? あんた、修治とやったあと、矢島にもレイプされてたじゃん? 

状況としては妻帯者でまだ覚悟もそこまでは無かっただろう修治と、先のこと何も考えず行き当たりばったりの矢島じゃ、避妊問題はどう考えても、そりゃ矢島の子じゃないのか、と突っ込みたくなる。

ああ、イカン。サスペンス映画とか、人間社会で裏切られ続けてるせいで、単純に素直に楽しむ能力が亡くなっている。

ストーリーはかくのごとくのめり込めなかった部分がかなり沢山あるんだけど、とにかく芸達者が揃っていて、見応えは間違いなくあった、とはいえよう。