晴れた午後の4月おわりに、私は公園を歩いていた。美しさは私には響かなかったが、それはひとえに私が汚れているからであった。
ウォークマンで音楽を聴いていた、この世の真理が軽快に歌われるような、そんな音楽を。私はそんなに澄み渡った空のような中で待ちぼうけを食らっていたのかもしれない。なにか素晴らしくいいもの、に対する期待を捨てられず生きている人間のひとりとして。
そこへ、にこにことした小さな2、3歳くらいの男の子がみえる。未来と自由を含んだようなぷにぷにの頬が、私に近づいて来たかと思ったら、まさか私の左手をグイッと握った……!そしてそのまま公園の進行方向へと前進していく。驚いた。いい予感しかしない!「どうしたの?どうしたの?」と叫ぶ私は喜んでいた。
男の子は、公園に一緒に来ていたお母様と妹のいる所へと私を連れてきた。そして、ぱあ、っと私に向き直り、にこにこしていた。
人生の美味しい部分を教えてあげた!という満足を現すようなかおをしていた!私は衝動を抑えられずに、「どうしたの?遊んでたの?」と、からかうようにきいた。男の子はにこにこ笑うばかりで、何も言わなかったが、私の脚に抱きついて、力の限りでハグをしてきた!
こんな地上の天使……!天使が突然私に訪れた日!こんなさりげなく何気なく!
私は彼の頬にふれた!頬はさらさらとしていて、柔らかい!使い古された言い回しだが、桃のようだった。幸福の予感を余すところなく膨らませている、頬!
幸福はついに何も言わずに、微笑みだけで居なくなってしまった。お母様と、妹は、私を始終見詰めていた!母親は常に心を配りつつ、そばに居た。
春の気配は、もう夏の木陰に潜みつつある、晴れた午後だった。