The World is Full of Uncertainty

不確実性とどう折り合いながら未来に向かってゆくか。感染症・医療・科学技術・社会的合意形成にまつわるトピックで記していきます。

予防接種をめぐるコンフリクトは何も日本だけの問題ではない。

 

しばしば、日本の予防接種制度が進まない原因について、”日本人”はゼロリスクを求めるせいだとか、日本の非医療従事者・政治家の理解不足との説明がある。いやいやどうして、海外でも予防接種に関するコンフリクトは根強い。

New England Journal of Medicineでも最近のニューヨークでの麻疹のアウトブレイクへの行政の対応を批判する意見論文が掲載されている。

 

UCLA法科大学院のJulie D. Cantor教授の意見論文で、反強制的な義務接種や中止基準のあやふやな登校禁止を進める前に、もっとコミュニティに根ざしたアプローチを進めるべきではなかったかというものだ。

Mandatory Measles Vaccination in New York City — Reflections on a Bold Experiment.
Julie D. Cantor, M.D., J.D.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1905941

 

また、別の論文では、インディアナ大学公衆衛生大学院/法科大学院のRoss D. Silverman教授が、オハイオ州の高校生が、反ワクチン的な心情をもつ母親の反対に抗して18歳になった時点で接種を受けたエピソードに触れて未成年の自己決定権について議論している。米国でも、未成年者の医療に対して、本人ではない「親権者」の同意の適切性は法的な議論があるようだ。この事例でいえば、本人は、科学的にポジティブな情報に基づいて接種を受けたいと考えているのに、なぜ、親の許可がないと接種が受けれないのか、制度的な問題があるというわけだ。

Vaccination over Parental Objection — Should Adolescents Be Allowed to Consent to Receiving Vaccines? Ross D. Silverman, J.D., M.P.H., Douglas J. Opel, M.D., M.P.H., and Saad B. Omer, M.B., B.S., M.P.H., Ph.D.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1905814

 

通底しているのは、個人・コミュニテイの自律的決定の自由を至高のものとするアメリカの民主主義と公衆衛生・医療政策との間のコンフリクトをどのように解決してゆくべきかを目をそらすことなく、前向きに考えているところだ。どちらの論文も医師・法学博士が著者となっており、米国における医療と法の境界領域の専門家の層の厚さを感じさせる。全く異なる理論体系の専門領域であり、共通理解の確立は極めて難しいはずの医療と法の論理だが、その間の学際領域が次々と埋められていく米国。

日本の専門家達はどうアプローチしていゆくのだろうか。道筋は見えない。