谷藤特許事務所の未来模索ブログ

いつも未来を模索しているちょっと変わった弁理士のブログです。突っ込み大歓迎です。一緒に未来の巨大ブルーオーシャンを先取りしませんか。

ビッグデータ販売ビジネスの勃興の予感

AIフード製造販売ビジネスが勃興する予感がします。
ビッグデータのビジネス利用を考えた場合に、今後飛躍的に伸びると思われるのが人工知能による機械学習用の餌としての利用と思います。

人工知能の強み(うまみ)を一言でいえば、希望と適切な大量データ(ビッグデータ)とを入力して学習させることにより希望を叶えてくれる人工知能に成長する点にあります。今後、一般教養を習得した汎用人工知能クラウドサービスとして誰でも利用可能になりそうです。その結果、各企業は自分の事業分野に特化した専門知識を人工知能に学習させてその学習済みの専門人工知能を利用するという、ユーズウェア競争の時代に突入する。このユーザウェア競争にいち早く勝利した者がその事業分野で覇権を握ることになります。

一方、専門人工知能を育成する前提条件として、当該専門分野のビッグデータを保有していることが必須となります。よって、或る専門分野で覇権を握るには当該専門分野の機械学習ビッグデータを保有しなければなりません。ところが、自社ではビッグデータを保有していない企業も多数存在します。
そこで、今後、ビッグデータ販売ビジネスを行う企業が勃興するのではないかということになります。以下の2つの記事が参考になります。
動き始めたビッグデータビジネス

http://www.asckk.co.jp/columnbl/index.php?ID=113
マスターカードビッグデータの販売が急成長

http://jp.reuters.com/article/master-card-big-data-idJPKBN0EM2SR20140611
また、個人情報保護法の改正も追い風になります。

さあ、汎用人工知能クラウドから借りればよく、その餌はAIフード販売業者から購入すればよい時代になります。その気になれば可能な時代、まさにYes we canの時代が到来します。そのとき、あなたの会社ではどのようなビジネス展開を行いますか?
まさに、ここが経営者の腕の見せ所です。

先読み式イノベーション:未来型ブルーオーシャンでの事業化方法(奇策)

成功方法は寝て待て!

 過去7回にわたって未来型ブルーオーシャンを先読みするテクニックについて解説しました。今回は、未来型ブルーオーシャンを先読みできた後何をすべきか、について説明します。未来型ブルーオーシャン市場を完全に独占したいのであれば、自ら事業化のための研究開発を行ってその成果を随時特許化する必要がありますが、今回は、他社の成功例に便乗する奇策を説明します。一言でいえば、「未来型ブルーオーシャンを特許で独占した後、具体的な事業化は自然淘汰で生き残った成功事例を待て」です。

 5年先に誕生するブルーオーシャン市場に今から飛び込んで事業化しようとしても時期尚早で成功しません。しかし、先読みできたブルーオーシャンを独占する方法があります。特許です。特許出願して5年後には特許が成立する時期になります。先ずは、推測されるあらゆる事業形態を明細書に記載して広い請求の範囲で出願します。その後は、市場を睨みながら自然淘汰で生き残った成功事例を狙い撃ちできる請求の範囲で分割出願を繰り返し行います。これらの特許は、先行技術が少ないため基本特許(必須特許)になります。

 前回のブログで、ヒットを狙うには「数撃ちゃ当たるマシンガン方式」がよい旨記載しました。開発コストを下げるには、多数のイノベーションを市場に晒して自然淘汰により生き残った成功事例が出てくるのを待つという方法があります。つまり、厳しい自然淘汰の洗礼は他社に担ってもらうという手法です。こんなことができるのも、早い段階で出願した基本特許を保有しているためです。

 そして、自然淘汰で生き残った一番の成功会社と互いの特許権でクロスライセンスを締結し、極力2社だけでブルーオーシャン市場を独占します。

 以上説明した奇策は反対意見も多数あると思います。例えば、「自ら汗を流して事業化に貢献していない会社が後に甘い汁を吸うのはけしからん」などの声が聞こえてきそうです。しかし、未来型ブルーオーシャンがどこに誕生するかを予測し、それを特許公開公報で公開することにより、将来誕生する巨大ブルーオーシャンを世の中に初めて紹介した貢献を無視すべきではないと思います。これを見た多数の企業が事業化のために動き出すのであり、どのような方向で事業化すれば成功するのかという羅針盤の役割が発揮されます。

プラットフォーム化の法則

 森の生態系の頂点に君臨する王者よりも強いものは森自身!

 

■プラットフォームとは

 ここでのプラットフォームとは、OS(オペレーティングシステム)のことではありません。プラットフォームの言葉本来の意味は、平らに盛り上がったところを指し、それが築かれてはじめてその上部のものの構築に手をつけられるものです。ここで用いるプラットフォームは、その上で個人や企業が様々な活動を展開する場の意味です。

 プラットフォーム化の法則とは、イノベーションを実際にビジネス展開していく上ではプラットフォーム化するのが有利であるという法則です。

  プラットフォーム化の過去の例としては、amazonウェブサービスが有名です。amazonは、自社で蓄積している膨大な商品情報のデータベースを広く開放し、個人やベンチャーが、amazonの提供したAPIを利用してamazonの商品を売ることができるようにしました。これにより、多くのウェブアプリケーションが生まれ、その新たなウェブサイトを通じて行なわれる購買行動に対して、amazonが手数料を得るビジネスモデルが構築されました。プラットフォーム化によるamazonの狙いは、「誰もがamazonのプラットフォームに寄生しなければ生きていけない世界を作り出すこと」だったようです。

 他の例としては、アップルの「AppStore」が有名です。アップルからはiPhoneのソフト開発キット(SDK)が公開されていて、このSDKを利用して開発されたソフトをアップルに申請すれば、審査の上でAppStoreで販売されます。

 このAppStoreに対抗するべくグーグルはAndroid Marketという同様のアプリケーション流通・販売プラットフォームを構築しました。

 

■プラットフォームビジネスの利点

 多数のプレイヤーが活動しやすいプラットフォームを構築すれば、その上で多数のプレイヤーを活動させることにより、プレイヤー自身が利益を得るとともに、プラットフォーマーにも手数料が入る仕組みができます。特に、他者に先駆けてプラットフォームビジネスを巨大化することにより、それがデファクトスタンダードとなり、プラットフォーム市場の独占が可能となる点が有利です。

 プラットフォームのさらなる利点としては、プラットフォーム上にエコシステム(生態系)ができ、市場での自由競争原理に従った自然淘汰により、市場ニーズにマッチした製品やサービスに進化させることができる点です。

 例えばAppStoreの場合、AppStoreというプラットフォーム上に、個人プログラマー、アプリ制作会社、アプリ発注会社、アプリ受注制作会社、インキュベータ(例えばKDDI ∞ Labo)等の種々のプレイヤーが活動しています。これらのプレイヤーから成るエコシステム(生態系)から日々たくさんのアプリが生まれますが、そのアプリの大半は市場での自由競争原理に従って自然淘汰され、進化して残ったアプリのみがヒットします。

 良いものかどうかを決めるのは、会社内の企画部や技術開発部ではなく、消費者(ユーザ)です。良いものが売れるのではなく、「売れるものが良いもの」なのです。良いものを作ろうとするのではなく売れるものを作ろうとすべきです。

 プラットフォーム上でのエコシステム(生態系)内で自然淘汰され進化して残ったアプリは、まさに消費者(ユーザ)が選んだアプリであり「売れるアプリ」です。

 プラットフォーム上でのエコシステム(生態系)は、「良いものではなく売れるものを作るための生産工場」と言えます。

 

■ヒットを狙うには一発方式からマシンガン方式へ

 一般的にいって、組織が大きくなればなるほどイノベーション開発手法は、「狙いをすました一発方式」になる傾向があります。長時間かけて何度も会議を繰り返して市場ニーズを絞り込み、必ず命中するまで狙いを絞り、その上で一発撃つというやり方です。その典型例が、過去日本政府が推進してきたシグマ計画、第五世代コンピュータ情報大航海プロジェクト等です。この「狙いをすました一発方式」の場合、市場ニーズにマッチしない無用の産物をつくり出す危険性があります。

 近年、ニーズの多様化が原因で、市場ニーズが見えにくくなっており、しかも、すぐに変化して移り変わる傾向があります。よって、このような性質を持つ近年の市場ニーズを射止める最良の方法は、市場ニーズの大まかな位置が分かった段階で、その市場ニーズが変化する前に間髪をいれず多数の弾丸を撃ち、そのうちのいずれかが命中するという、「数撃ちゃ当たるマシンガン方式」です。つまり、多数のトライ&エラーを繰り返さなければ、市場ニーズを射止めることはできません。

 この「マシンガン方式」に最適なシステムがプラットフォームです。プラットフォーム上で活動する多数のプレイヤーが多数の弾を撃ち、自由競争原理に従った自然淘汰により、市場ニーズにマッチした製品やサービスだけが生き残ります。

 

 プラットフォーム側は、このような自然淘汰の厳しい生態系内に足を踏み入れることなく利益を享受できるというメリットがあります。

 つまり、森の生態系の頂点に君臨する王者よりも強いものは森自身ということになります。

先読み式イノベーション:欲求充足のダイレクト化の法則

 わざわざ羽ばたいて飛ぶ飛行機を造ってもしかたがない

  テクノロジーの強みは、人間が欲する欲求に的を絞ってそれをダイレクトに叶えることに特化できる点です。分かりやすい例えを示します。鳥は飛ぶことができますが、動物という制約が起因して羽を羽ばたかせることでしか推進力を得られません。一方テクノロジーは動物という制約がないため羽を羽ばたかせることによる推進力に限定されません。その結果、早く飛びたい、遠くまで飛びたい等の人間の欲求をよりダイレクトに叶えるための推進力、すなわちプロペラの回転による推進力、ジェット噴射による推進力が開発されました。これを「欲求充足のダイレクト化」と呼びましょう。

  或る欲求を充足するためのテクノロジーを開発するにあたっては、この「欲求充足のダイレクト化」というテクノロジーの強みが十二分に発揮できるように開発すべきです。

 例えば、メタバース(コンピュータによって生み出されてインターネット上に存在する仮想世界)は、現実の世界という物理的制約から解放され、ユーザの欲求を最短距離で達成する機能だけに特化した世界に進化していくことが予想されます。逆に言えば、現実世界でできることを仮想世界で同じように行なっても、なんの価値もないということです。例えて言えば、わざわざ羽ばたいて飛ぶ飛行機を造るようなものです(却って面白いかも。笑)。

  特に、前々回の「先読み式イノベーション(その2)」と欲求充足のダイレクト化の法則との組合せが重要です。「先読み式イノベーション(その2)」での教訓は、「ヒットするイノベーションを開発するには、何が目的(根底的欲求)で何がその目的を達成する手段(行動パターン)であるかを見極めることが重要」でした。この教訓で見極めた「目的(根底的欲求)」に対して欲求充足のダイレクト化の法則を適用することにより、イノベーションが生まれます。

 スーパーにやかんを購入しに来たお客を見て、その購買行動の根底に「いつでも手軽に熱湯を手に入れたい」という目的(根底的欲求)があることを見抜き、そこに「欲求充足のダイレクト化の法則」を適用すると、瞬間湯沸かし器というイノベーションが生まれます。

先読み式イノベーション:未来を先読みするための「テクノロジーとニーズの相互作用の法則」

 テクノロジーとニーズは相互に影響し合いながら複雑に変化します。

 

 テクノロジーはユーザのニーズを満たすために開発されます。ところがユーザのニーズは提供されたテクノロジーによって変化します。その結果、テクノロジーとニーズは相互に影響し合いながら複雑に変化していきます。これを「テクノロジーとニーズの相互作用」と呼びましょう。以下に具体例を示します。

 

 マズローの欲求の階層説(生理的欲求→安全欲求→愛情欲求→尊敬欲求→自己実現欲求)での最上位階層に位置するのが「自己実現欲求」です。この「自己実現欲求」を満たすための具体的手段(行動パターン)が、インターネット(特にSNS)の普及により変化しました。

 インターネットの普及以前では高級ブランド品や高級外車等の購入が流行しました(記号消費)。このような行動を起こす動機付けは、主に、自己実現に成功した証のため、また他人から尊敬され認められたいためと思われます。この時代は「モノで自分を語る」から「モノ語り消費」とも言われていました。つまり、この時代では、「自己実現欲求」を満たすための具体的手段(行動パターン)は主に経済的成功を成しとげることでした。言うなれば金銭的物欲の時代です。

 

 一方、インターネットの普及以降では、草食系男子という言葉が流行り、若者の草食化が指摘されるようになりました。また若者の消費離れも指摘されるようになりました。さらには、若者の「社会貢献志向」が高まりました。「自己実現欲求」を満たすための具体的手段(行動パターン)は、NPO等による社会貢献活動にかかわることを通じて、人や社会やコミュニティとつながりを持ちたいという「社会献志向」に変化してきました。

 

 第一生命経済研究所の主任研究員北村 安樹子氏は、Life Design REPORT 2008.3-4により、次のように述べています。

 「企業による新卒採用の動きが活発化しつつあるなか、近年ではNPO社会的企業といった組織が若者の関心を惹きつけている。・・・NPO従事者ではNPO収入の有無にかかわらず、「いろいろな人や社会とのつながりをもちたい」「自分の能力や可能性をためしたい」「仕事を通じて達成感をえたい」「社会のために貢献したい」といった、自己実現や社会貢献に関する理由をあげる人の割合が同世代の企業従業員に比べて大幅に高い。」

 また、若者はなぜ「繋がり」たがるのか(武田徹著)には次のことが述べられています。「社会的地位の確立しない若者は、自らの社会への参加と社会や仲間社会からの認知をより強く確認したがる。」

 

 以上のことから次のような言葉が出てきます。「つながり願望」「社会貢献志向」「自己実現」「認知」

 ここで、どれが目的(根底的欲求)でどれが具体的手段(行動パターン)かを見極める必要があります。1番根底にある欲求はなんと言っても「自己実現欲求」でしょう。

 それでは、「つながり願望」「社会貢献志向」「認知」では、どれが目的(根底的欲求)側に位置しどれが具体的手段(行動パターン)側に近いのでしょうか。

 私は、「認知」を満たす具体的手段(行動パターン)として、「つながり願望」や「社会貢献志向」が出て来るのだと考えています。つまり、社会や仲間から認知されたいという「認知欲求」が目的(根底的欲求)側に位置し、「つながり願望」や「社会貢献志向」が具体的手段(行動パターン)側であると考えています。

 

 次に、若者の根底的欲求を満たすための手段(行動パターン)が「つながり願望」や「社会貢献志向」に変化したことがテクノロジーに影響を与え、それらの行動パターンを支援するためのテクノロジーが発展しました。それがSNSです。

 SNSの発展がさらに若者の行動パターンに影響を及ぼし、つながり願望と社会貢献志向とがますます増殖する一方、金銭的物欲がますます減少しました。その結果、若者は「つながり願望」や「社会貢献志向」を直接満たしたくれるSNSに走り、モノ自体を消費しなくなりました。

 

 なお、金銭的物欲(記号消費)からつながり願望(つながるための消費)へのニーズの変化が生じた理由については、佐々木俊尚著キュレーションの時代(ちくま新書)の第二章:背伸び記号消費の終焉で詳しく解説されています。私の価値観のフィルタを通して要約すれば、次のようになります。

 「インターネットが普及した環境に長年住むことにより、CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)が興りビオトープが多発して情報の流れが千差万別化した結果、上流から下流へと情報を流すマスメディアが衰退し、そのマスメディアの存在を大前提としている記号消費が消滅した。その結果、金銭的物欲(記号消費)からつながり願望(つながるための消費)へとニーズが変化した。」

 

 結局以下のようになります。

 ① 根底的欲求としての自己実現欲求を満たすための行動パターンとして、金銭的物欲で記号消費を行なっていた時代に、インターネットが登場し、若者の行動パターンに影響を及ぼしました。

 ② その結果、若者の行動パターンが、「認知欲求」とそれを満たすための具体的手段(行動パターン)としての「つながり願望」や「社会貢献志向」に変化しました。その行動パターンの変化がテクノロジーに影響を与え、「つながり願望」や「社会貢献志向」をよりダイレクトに満たすテクノロジー、すなわちSNSが発展しました。

 ③ そのSNSがさらに若者の行動パターンに影響を及ぼし、「つながり願望」と「社会貢献志向」とがますます増加する一方、金銭的物欲がますます減少しました。その結果、若者は「つながり願望」や「社会貢献志向」を直接満たしたくれるSNSにどっぷり浸かり、モノ自体を消費しなくなりました。

 

 以上をまとめれば、

 a ニーズの変化=行動パターンの変化

 b 根底的欲求は変化しないが、ニーズ(行動パターン)は与えられたテクノロジーによって変化する

 c ニーズ(行動パターン)の変化がテクノロジーに影響を及ぼし、テクノロジーが変化する

となります。

 

 上記bを逆に言うと、人間を取り巻くテクノロジー環境により「根底的欲求を満たすための手段(行動パターン)」の変化の方向をコントロールすることが可能ということになります。つまり、「ニーズ変化の法則」を研究すれば、どのようなテクノロジーを提供するかによって未来のニーズをコントロールできるようになるかもしれません。これが可能になれば、「未来のニーズ」は、予測するものではなく創り出すものとなります。その結果、計画的に先読み式イノベーションを開発できるようになります。この未来ニーズをどのようにしてコントロールするかについては、私も未だ解明できておらず、現在研究中のテーマです。

先読み式イノベーション:仮説検証法

 未来型ブルーオーシャンを予測する際に重要なことが、或る現象が起こったときになぜそのような現象になったのかのとどのつまりの原因(深層原因)を追究することです。例えば「若者の消費離れ」や「若者の草食化」という現象が生じていますがその深層原因はなにかを追究しなければなりません。その深層原因が分かって初めてその原因にピントが合ったイノベーションを開発できます。

 

 深層原因の追究に有用なテクニックとして「仮説検証法」があります。

 原因を追究するための仮説検証法とは、或る現象が生じたときにその原因についての仮説を立て、その仮説に反する現象(反現象と称する)を探し、見つかれば仮説が間違っているためにその反現象にも矛盾しない新たな仮説を立て、これを反現象が出て来なくなるまで繰り返す思考法です。

 

 分りやすい例えを示します。鳥はなぜ空を飛ぶことができるのか、その深層原因(本質的理由)を仮説検証法により追究してみましょう。

 仮説1:深層原因は羽を羽ばたかせているためである。

 反現象:真空の空間ではいくら羽ばたいても飛べない。

 仮説2:羽ばたくことにより空気を進行方向とは逆方向に移動させていることが深層原因である。

 反現象:空気を進行方向とは逆方向に移動させていないのに飛べるものがある。例えば花火。

 仮説3:空気は単なる一例にすぎず、空気のような質量を有するものを進行方向とは逆方向に移動させることによってその反作用の力により鳥が飛ぶ。

 

 このように仮説を重ねるごとに深層原因に近づくことができるのが仮説検証法です。

 それではもう1つ、前述の「若者の消費離れ」の深層原因(本質的理由)を仮説検証法により追究してみましょう。「最近の若者は車に乗らないしテレビも見ない、酒も飲まない。これじゃモノが売れない。」という嘆きをよく耳にします。このような「若者の消費離れ」は、不透明なニーズを推理する上で重要なテーマです。これを仮説検証法により明らかにしてみましょう。

 

 仮説1:以前に比べて若者が貧乏になったのが深層原因である。

 反現象:貧乏なら消費対象が生活必需品に限定されるはずだが、例えばスマートフォンソーシャルゲームのアイテム等は惜しげもなく消費する。

 仮説2:若者のニーズが金銭的物欲から人とのつながり願望に変化した。そのつながり願望を満たす代表がSNSであり、SNSは金銭的な消費を必要としないものであるため。

 

 それでは、なぜ若者のニーズが金銭的物欲からつながり願望に変化したのでしょうか。これはかなりの難題で難しい話になりますが、未来を推測する上で重要なテーマですのでご容赦ください。

 仮説1:生まれたときからネットを通じていつでもどこでも人とつながることが可能な環境で育ったため、つながり願望が高まった。

 反現象:例えば、いつでも海外旅行に行ける環境に育った若者よりも、めったに海外旅行に行けない環境に育った若者の方が、海外旅行への願望は強い。同様に、生まれたときからネットを通じていつでもどこでも人とつながることが可能な環境で育った若者よりも、あまり人とつながることができない環境で育った若者の方がつながり願望が高いのでは。

 仮説2:例えば、電気設備が完備された環境で育った国民は電気のない環境で育った国民に比べて電気に対するニーズが高い。これは、電気のある生活に長年慣れ親しむことにより電気が生活の中に深く浸透して生活の一部となるためである。人とのつながりも電気設備と同様に長年その環境に慣れ親しむことにより生活の一部化する性質のものである。

 反現象:例えば、ラテン系の民族は電気のない時代でも電気のある時代になってからも陽気な民族性は一貫しており変化しない。同様に、人とのつながりが生活の一部化してつながり願望が高まったとしても、金銭的物欲も一貫して存在するのでは。金銭的物欲が減少した理由の説明にはなっていない。

 仮説3:マズローの欲求階層説における「自己実現欲求」は一貫して存在しており、その「自己実現欲求」を満たす具体的手段(行動パターン)が変化した。消費による金銭的物欲に走る行動パターンから、人や社会とのつながりを大切にし社会貢献する行動パターンに肩代わりされた。人とのつながりが生活の一部化したとしても「自己実現欲求」自体は一貫して存在しており、その「自己実現欲求」を満たす具体的手段(行動パターン)だけが変化した。ラテン系民族の例えで言えば、ラテン系民族の陽気性は一貫して変化しない「自己実現欲求」に対応するものであり、その陽気性を表す具体的手段(行動パターン)のみが変化した。例えて言えば、以前はリオのカーニバルではしゃぐことにより陽気性を発揮していたが、それがネット上に陽気な写真を投稿することに変化した。

先読み式イノベーション(その3)

やかんを買いに来た客はやかんが欲しいから買いに来たわけではない。これは、人の心理的活動に潜む意外な法則の1つです。

  人は、行動の前提として目的(根底的欲求)があり、その目的を達成する手段(行動パターン)を選んで行動します。そして、目的(根底的欲求)は変化しませんが、手段(行動パターン)は周りの環境(テクノロジー)によって変化します。よって、イノベーションを開発するにあたっては、何が目的(根底的欲求)で何がその目的を達成する手段(行動パターン)であるかを見極めることが肝要となります。

  「そんなこと、どっちでもよいではないか」と思われるかもしれませんが、これがイノベーションを開発する上での重要なキーになります。分かりやすい例えを1つ挙げます。

 スーパーにやかんを買いに来たほとんどの客は、やかんが欲しいから買いに来たのではなく、いつでも手軽に熱湯を手に入れたいからやかんを買いに来ます。つまり、「熱湯が欲しい」が目的で、「やかんの購入」はその目的を達成するための手段(行動パターン)にすぎません。

 よって、「いつでも手軽に熱湯を手に入れたい」という目的をより叶えてくれる瞬間湯沸かし器を開発して売出せば、ヒット商品になります。

 しかし、客の中には、「やかんの購入」自体が目的の人もいます。例えば、やかんコレクターで世界の珍しいやかんを集めることを趣味にしている人です。そのような客に向かって、瞬間湯沸かし器を勧めても効果はありません。

 SNS等での若者のつながり願望も同じことが言えます。つながり自体は目的ではなく他に目的があり、その目的を達成するための手段(行動パターン)として「つながる」のであれば、その目的を叶えてくれるより良い手段を別に開発すれば、ヒットします。現在のSNSを凌駕する大ヒット商品に案る可能性があります。逆に、つながること自体が目的であれば、ヒットしません。

 このように、ヒットするイノベーションを開発するには、何が目的で何がその目的を達成する手段(行動パターン)であるかを見極めることが重要です。

  「そんなこと簡単だ。ユーザ(客)に直接質問すればよいではないか」と思われるかもしれませんが、実際はそう簡単ではありません。

 前述のやかんの例えで説明します。瞬間湯沸かし器のない時代を想像してみてください。その時代に、「あなたはやかんが欲しいからやかんを買いにきたのですか。それとも目的は別にあってその目的を達成するためにやかんを買いに来たのですか。」と尋ねたとします。すると必ず次のような答えが返ってきます。「やかんが欲しいからやかんを買いにきたに決まっているだろう。分かりきった質問をするな。」