不漁の日々に
本を読んだ。
3読目。
初読は小学生の夏。
読書感想文のために読んだ。
しかし、何も書けなかったことを覚えている。
2読目は数日前。
不漁続きの漁師の老人に、自分の姿を重ねて、あるいはこの本の中に自分を慰めてくれる何かがあるかもしれないと思って手に取った。
しかし、結果は慰められるどころか、生き延びることすら出来なかった。
そして3読目。
前読以来、ずっと何かが引っかかっていて次の本に進めなかったから。
何も読めなかった過去2読。
それは屈辱ではあったが、でも、84日間不漁続きという老人と舟に乗るには悪くない状況なんだと思った。
そして、何かを釣り上げる気で読み始めた過去2読とは、今読は全くちがう心情だった。
ただ、自分が生きて帰ることができるかどうか。
それを見定めるためだけに老人と舟に乗った。
そして帰ってきた。
帰ってきたんだ。
正直自分でも驚いている。
今までハードボイルドという名のもとで、雄々しさやたくましさばかり強調されていた作品。
でも、生き延びた私が見たものは、あの子を想い、あの子の憧れを守りぬき、あの子の元へ帰る喜びを胸に生きる老人の姿だった。
母なる海、そのものだった。
書きたいことがまとまらない。
ほどに静かな興奮の中にいる。
この読書体験は忘れたくない。
20200925
虚なアイ
本を読んだ。
始まりは恋愛小説。
現代風に出逢った殿方と実際にデートしてみることになったので、恋愛小説が読みたかった。
ただ、他人の恋愛から何か参考にしたかったから。
【恋愛小説】
と検索したら、この本に辿り着いた。
他に出てきた本には対して興味をそそられなかった。
たった1冊だけ、読んでみたいと思った本、それがこの本だった。
存在は元々知っていて、でも私の認識ではこれは恋愛小説ではなかったので、ちょっと違和感があった。
しかし実際に読む前に、デートの日は訪れた。
待ち合わせ前に本屋さんをぶらぶら。
その時はこの本のことは忘れていた。
プレミアムカバー。
という、ある出版社が毎年数冊選んで出している特別なカバー。
青とか赤とか黒とか、一色だけの絵のないシンプルなカバーが私はとても好きで、毎年1冊買うことにしている。
今年のラインナップを眺めた。
あっ。と思った。
あの本だ。
緑。
私は迷わず手に取った。
帰りの電車に揺られながら読み始めた。
初読。
だと思っているが、いつかどこかで読んだことがあるような、ないような。
この居心地の良さはなんだろう。
それはそこが幾度となく私が夢見た世界だからなのか。
これは憧憬小説。
こんな温かい場所に居た記憶はどこにもない、なのにどこか懐かしい。
幼い頃から憧れ続けた場所。
でももう辿り着けないと思い始めていた。
それでも今なお、私は求め続けている。
私の中の虚なアイと、誰かの中の虚なアイが出逢う場所を。
正解はない。
喜びもない。
ただ、静けさがあるその場所を。
20200924
読んで書いて、そして読書となす。
呼吸のように、読んで書いて。
深く、静かに、沁みいるまで。
しん 呼吸。
本を読んで散らかった私の思考。
本を読んでこぼれ落ちた私の感情。
整理できても、できなくても。
掬いあげることができても、できなくても。
しん 呼吸。
そんなブログです。