数学界のエース

現役東大理Ⅲ生が高校数学を解説するブログです

世にも奇妙な数式をテイラー展開から導く

 今回は、メルカトル級数ライプニッツ級数を、テイラー展開を使って解説します。

 

  対象者:頻出のメルカトル級数ライプニッツ級数を別の視点から眺めたい受験生

      世にも奇妙な数式が導かれる様を体感したい一般人

  到達水準:(厳密ではないが)メルカトル級数ライプニッツ級数を簡単に導ける!

 


 突然ですが、問題です。

  ( 1 ) 1+1   ( 2 ) 4\times 5   ( 3 ) {\displaystyle \frac{1}{2}-\frac{1}{3}}

を計算してください。

 ......答えは

  ( 1 ) 2   ( 2 ) 20   ( 3 ) {\displaystyle \frac{1}{6}}

です。

 

 「バカにしてんのか?!」と思われたかもしれませんが、そうではありません。何が言いたかったかというと、身近な数を使って計算しても身近な数しか出てこないということです。身近な45をかけたら身近な20が出てきましたもんね。

 

 ところがどっこい、世の中そうは甘くないのです。次の式を見てください。

  {\displaystyle \frac{1}{1}- \frac{1}{2}+ \frac{1}{3}-\frac{1}{4}+......={\rm log}2}

  {\displaystyle \frac{1}{1}- \frac{1}{3}+ \frac{1}{5}-\frac{1}{7}+......=\frac{\pi}{4}}

 左辺には「整数分の1」という形の至って身近な数しか現れていませんが、右辺を見てみると{\rm log}2{\displaystyle \frac{\pi}{4}}という身近ではない数が現れているではありませんか!これは驚きです。

 

 この2つの式には名前がつけられていて、上の式を「メルカトル級数」、下の式を「ライプニッツ級数」と言います。どちらもとても興味深い式ですね。なぜこんな式が成り立つのか、テイラー展開を使って解説します。

 

 テイラー展開がよくわからない方はこちら

 

uts3himath.hatenablog.com

 

 


 まずは、メルカトル級数

  {\displaystyle \frac{1}{1}- \frac{1}{2}+ \frac{1}{3}-......}

   {\displaystyle \left(=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^{k-1}}{k}\right)}

   ={\rm log}2

を導きます。

 

 {\rm log}(1+x)テイラー展開を思い出してください。

  {\rm log}(1+x)

   {\displaystyle =x-\frac{1}{2}x^2+\frac{1}{3}x^3-......}

   {\displaystyle \left(=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^{k-1}}{k}x^k\right)} 

 

 これに、x=1を代入してみましょう。すると......?

  {\rm log}2

   {\displaystyle =1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-......}

   {\displaystyle \left(=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^{k-1}}{k}\right)} 

となり、メルカトル級数が導かれました!!

 こんなに簡単に導けてしまうんですね。

 

 ※実はこの議論は順番が逆で、本来は、メルカトル級数を別の方法で導くことで、{\rm log}(1+x)テイラー展開x=1でも成り立つことがわかるのです。ただし、今は簡単に導いてみることが目的なので、細かいことは気にしません。

 


 次は、ライプニッツ級数

  {\displaystyle \frac{1}{1}- \frac{1}{3}+ \frac{1}{5}-......}

   {\displaystyle \left(=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^{k-1}}{2k-1}\right)}

   ={\displaystyle \frac{\pi}{4}}

を導きます。

 

 そのために、{\rm Arctan} xテイラー展開を求めてみます。({\rm Arctan} xとは、tan x逆関数のことです)これは、テイラー展開の公式

  {\displaystyle f(x)=f(0)+f^{\prime}(0)x+\frac{f^{\prime \prime}(0)}{2}x^2...}

   {\displaystyle \left(= \sum_{k=0}^{\infty}\frac{f^{(k)}(0)}{k!}x^k\right)}

にそのまま代入して求めるのは少し難しいです。そこで、{\displaystyle ({\rm Arctan} x)^{\prime}=\frac{1}{1+x^2}}であることを利用して、工夫して計算します。

 

 まず、無限等比級数の公式から、|x| \lt 1のとき

  {\displaystyle \frac{1}{1+x^2}=1-x^2+x^4-...}

   {\displaystyle \left(=\sum_{k=1}^{\infty}(-x^2)^{k-1}\right)}

が成り立ちます。これを両辺積分して

  {\displaystyle {\rm Arctan} x=x-\frac{1}{3}x^3+\frac{1}{5}x^5-...}

   {\displaystyle \left(=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^k}{2k-1}x^{2k-1}\right)}

が成り立ちます。これが{\rm Arctan} xテイラー展開です!

 

 そしてこの式にx=1を代入してみると......

  {\displaystyle \frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-...}

   {\displaystyle \left(=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^k}{2k-1}\right)}

となり、ライプニッツ級数が導けました!!

 

 ※実はこの議論も順番が逆で、ライプニッツ級数を別の方法で導くことで、{\rm Arctan} xテイラー展開x=1でも成り立つことがわかるのです。ただし、上述の理由で、細かいことは気にしません。

 


 いかがでしたか?

 身近な数しか使ってないのに身近でない数が導かれるなんて、世にも奇妙ですよね。無限の世界は奥が深いです。

 

 何度も言いますが、上の議論は厳密性に欠けています。しかし、厳密性を犠牲にすることでこの世にも奇妙な級数たちが導かれる雰囲気を味わえたのではないでしょうか?

 

 世の中に数学が好きな人が1人でも増えることを心から祈っています。では!

 

 

 テイラー展開からこの世で最も美しい数式を導きたい人はこちら

uts3himath.hatenablog.com

 

素数は無限に存在する?!

 今回は、素数が無限に存在することを簡単に証明します。

 


 「素数」とは、1と自分自身以外に正の約数をもたない2以上の整数”、すなわち2,3,5,7,11,13,......のことでした。また、どんな整数も、「素因数分解」という方法で分解していくと必ず素数に行き着きます。つまり、素数はすべての整数を構成する要素なのです。これは化学の世界で言うと、どんな物質も分解していけば原子にたどり着くことに似ています。

 

 このようにすべての整数を構成している素数ですが、様々な興味深い性質を備えており、古くから数学者たちの心をつかんで離しません。そんな興味深い性質の1つが、「無限に存在する」ことです。

 

 無限に存在することの証明なんて難しそう......と感じるかもしれませんが、実は小学生でも理解できるくらい簡単に証明できてしまうのです!これを読んで、会話のネタを1つ増やしてください。

 

 2つの方法で証明します。

 


[証明1]

 これは、数学者ユークリッドによる証明で、紀元前から知られていました。

 

 まずは、素数が有限個しか存在しないと仮定します。

 もしもこの仮定のもとで議論を進めて矛盾が生じたら、この仮定が誤りで、素数が無限に存在することが示せますね。では頑張って矛盾を導きましょう!

 

 素数を小さいものから順に並べたものを2,3,5,......,pとします。そして、素数すべての積Nとします。すなわち、

  N=2\times 3\times 5\times ......\times p

とします。

 

 ここで、N+1という整数を考えてみましょう。最初に述べたとおり、どんな整数でも素因数分解すれば素数に行き着くので、N+12,3,5,......,pのどれかで割り切れるはずです。

 さて、N+12で割り切れるでしょうか?......いや、無理ですね。なぜなら、N2の倍数なので、それに1を足したN+12で割り切れるはずがないからです。では3では割り切れるでしょうか?......これも無理です。なぜならN3の倍数だからです。

 同じことを繰り返していくと、5でも7でも......pでも割り切れないことがわかります。つまり、N+1はどんな素数でも割り切れないのです!これは矛盾ですね。

 

 よって、素数が有限個しか存在しないことを仮定して見事に矛盾が導けたので、この仮定は誤りで、素数は無限個存在することになります!

 


[証明2]
 次は、先ほどとは毛色の違った証明を紹介します。これは、数学者サイダックが、つい最近の2006年に発表した証明です。
 
 まず、2以上の整数N_1を用意します。N_1としては、2でも15でも2413897831でも、何を持ってきてもよいです。N_12以上なので、何らかの素数で割り切れますね。
 
 そして、N_1N_1+1について考えてみます。N_1+1も何らかの素数で割り切れますが、それはN_1を割り切る素数とは違います。なぜなら、1差の整数がどちらも同じ数で割り切れるはずがないからです。よって、N_1N_1+1はそれぞれ別の素数で割り切れます。ここで
  N_2=N_1(N_1+1)
とすると、N_2は異なる2つの素数で割切れることがわかります。
 
 今度は、N_2N_2+1について考えてみます。すると先ほどと同じように、N_2+1は何らかの素数で割り切れますが、それはN_2を割り切る2つの素数のどちらとも異なります。よって、
  N_3=N_2(N_2+1)
とすると、N_3は異なる3つの素数(N_2由来が2つ、N_2+1由来が1つ)で割切れることがわかります。
 
 同じようにN_4=N_3(N_3+1),N_5=N_4(N_4+1),......と次々に計算していきます。すると、N_44つ、N_55つ、......N_ii個、......の素数で割切れることがわかります。
 
 さてここで、あなたが上司に「おい、なんでもいいから素数100個持ってこい」と言われたとします。あなたはどうすればよいですか?
 そう、あなたは頑張ってN_{100}を計算すればよいのです。なぜなら、N_{100}100個の素数で割切れることが保証されているから。
 では、「1000個持ってこい」「58308954378346個持ってこい」と言われたらどうしますか?同じように、N_{1000}N_{58308954378346}を計算すればよいのです。
 
 つまりあなたは、いくつでも素数を用意することができるのです。もし素数が有限個しかなかったら、そんなことは可能でしょうか?いいえ、不可能ですね。よって、素数は無限個存在するのです!

 


 どうでしたか?いとも簡単に素数が無限に存在することが示せちゃいました。こんなに簡単なのに、2つ目の証明が2006年まで世に知れ渡っていなかったのは驚きですよね。
 
 このように素数は、様々な興味深い性質を備えているのです。その中には既に証明されているものも多いですが、未だに証明されていないこともたくさんあります。例えば、双子素数(35571113のような、2差の素数)が無限に存在するかどうかは未だにわかっていないのです。素数が無限に存在することは簡単に証明できるのに、不思議ですね。
 
 素数に興味を持った方は、整数論を勉強してみてください!では!
 
 
 素数問題の解法を知らない受験生はこちら

この世で最も美しい数式

 今回は、この世で最も美しい数式を導いてみます。

 


 この世で最も美しい数式とは、オイラーの等式

   e^{\pi i}=-1

のことです。

 この式は、見たことはあるけどなんだか難しいイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。実はこれ、テイラー展開を使えば簡単に導出できてしまうのです!早速導出してみましょう。

 

 テイラー展開についてよくわからない方はこちら

uts3himath.hatenablog.com

 


 まずは、e^x,{\rm cos}x,{\rm sin}xテイラー展開を書き出してみます。

  {\displaystyle e^x=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{k!}x^k} 

  {\displaystyle {\rm cos}x=\sum_{m=0}^{\infty}\frac{(-1)^m}{(2m)!}x^{2m}} 

  {\displaystyle {\rm sin} x=\sum_{m=1}^{\infty}\frac{(-1)^{m-1}}{(2m-1)!}x^{2m-1}}

 そして、ここがポイントなのですが、e^xxxiを代入してみましょう!

  {\displaystyle e^{xi}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{k!}(xi)^k} 

 なぜこんな代入をしたかはすぐにわかります。さらに、i^2=-1を用いて(xi)^kを簡単にするため、kの偶奇でシグマを分解します。

   {\displaystyle=\sum_{m=0}^{\infty}\frac{1}{(2m)!}(xi)^{2m}+\sum_{m=1}^{\infty}\frac{1}{(2m-1)!}(xi)^{2m-1}} 

   {\displaystyle=\sum_{m=0}^{\infty}\frac{(-1)^m}{(2m)!}x^{2m}+i\sum_{m=1}^{\infty}\frac{(-1)^{m-1}}{(2m-1)!}x^{2m-1}} 

 このように、実部と虚部に分解できました。そしてこの式、よ〜く観察してください。どこかで見たことある式じゃないですか?そう、{\rm cos}x,{\rm sin}xテイラー展開が表れているのです!!上に戻って見比べてください。

 よって、この複雑な式に{\rm cos}x,{\rm sin}xを代入してみます。

   ={\rm cos}x+i{\rm sin}x

 こうして、

  e^{xi}={\rm cos}x+i{\rm sin}x

が導かれました。長旅でしたね。あと一歩です。

 この式にx=\piを代入してみると......?

  e^{\pi i}={\rm cos}\pi+i{\rm sin}\pi=-1+i\cdot 0

  \therefore e^{\pi i}=-1

 なななんと、オイラーの等式e^{\pi i}=-1が出てきました!!!これがオイラーの等式の導出です。

 


 お疲れ様でした。いやぁすごいですね。

 僕は初めてこの証明を見たときは深く感動しました。いわんやこの式を初めて発見したときのオイラー先生の感動は相当なものだったでしょう。数学を芸術だと言いたくなる気持ちもわかります。

 将来はこういう美しい式を導いて歴史に名を残すのもいいですね。なんて言ってみたり。

 

 では!

 

 

 テイラー展開を学びたくなった人はこちら

uts3himath.hatenablog.com

 

過去問解説 [東大理系確率2015]

 2015年の東大理系の確率の過去問を解説します。

 


[ 問題 ]

 どの目も出る確率が{\displaystyle \frac {1}{6}}であるさいころ1つ用意し、次のように左から順に文字を書く。

 さいころを投げ、出た目が1,2,3のときは文字列{\rm AA}を書き、4のときは文字{\rm B}を、5のときは文字{\rm C}を、6のときは文字{\rm D}を書く。さらに繰り返しさいころを投げ、同じ規則に従って、{\rm AA,B,C,D}をすでにある文字列の右側に繋げて書いていく。たとえば、さいころ5回投げ、その出た目が順に2,5,6,3,4であったとすると、得られる文字列は、{\rm AACDAAB}となる。このとき、左から4番目の文字は{\rm D}5番目の文字は{\rm A}である。

( 1 ) nを正の整数とする。nさいころを投げ、文字列を作るとき、文字列の左からn番目の文字が{\rm A}である確率を求めよ。

( 2 ) n2以上の整数とする。nさいころを投げ、文字列を作るとき、文字列の左からn-1 番目の文字が{\rm A}で、かつn番目の文字がBである確率を求めよ。

 

[ 方針 ]

 さいころを振って出た目に従ってアルファベットを書いていく問題ですが、1,2,3が出たときは{\rm A}2書くのが特徴的です。また、この問題を難しくしている原因でもあります。

 n回の出た目を確定できるでしょうか?これは、出た1,2,3の数によってn番目の位置が変わってきてしまうので、現実的ではありません。では、漸化式を作れるか考えてみましょう。

 漸化式を作るにも、出た目についての数列を立ててしまうと、先に述べたようにn番目の位置に対応するのはさいころを何回振ったときなのかわからないので、得策ではないでしょう。そこで、文字について数列「を立ててみましょう!

 

 文字は{\rm A,B,C,D}4つありますが、4つの数列を立てる必要はありません。なぜなら、

Point

  対称的ならまとめろ

に従い、{\rm B,C,D}についての漸化式はまとめられるからです。

 かといって、2つの数列で済むわけでもありません。なぜなら、数列を2つしか立てないと、文字列{\rm AA}の最初の{\rm A}と最後の{\rm A}を区別できず、うまく漸化式が作れないからです。よって、最初の{\rm A}と最後の{\rm A}を区別して、3つの数列を立ててみましょう。

 

 まずは

Point

  状態推移問題は推移図を描け

に従い、推移図を描きます。

f:id:uts3himath:20191029203855j:plain

  ただし、最初の{\rm A}{\rm A_1}、最後の{\rm A}{\rm A_2}としました。一応矢印についている確率について解説しておくと、{\rm A_1}の次は必ず{\rm A_2}なので{\rm A_1}\rightarrow{\rm A_2}1、その他は出た目が1,2,34,5,6{\rm A_1}{\rm B,C,D}と変わってくるので、どの矢印も{\displaystyle \frac {1}{2}}です。

 次に、

Point

  n回目とn+1回目の間に一般的な関係がある →   Aパターン

に従い、左からn番目の文字が{\rm A_1,A_2,B+C+D}である確率をそれぞれp_n,q_n,r_nとします。

 

[ 解答 ]

( 1 )

 p_n,q_n,r_nは上記の通りとする。推移図に従い漸化式を立てて

  {\displaystyle p_{n+1}= \frac {1}{2}q_n+\frac {1}{2}r_n}

  {\displaystyle q_{n+1}= p_n} 

  {\displaystyle r_{n+1}= \frac {1}{2}q_n+\frac {1}{2}r_n} 

  {\displaystyle p_1= \frac {1}{2},q_1=0,r_1=\frac {1}{2}}

 ここで

  {\displaystyle p_n+q_n+r_n=1}

  {\displaystyle \therefore q_n+r_n=1-p_n}

であるから、

  {\displaystyle p_{n+1}= \frac {1}{2}(1-p_n)}

 である。これを解いて

  {\displaystyle p_n= \frac {1}{3}+\frac {1}{6}\left(-\frac {1}{2} \right)^{n-1}}

 また、

  {\displaystyle q_n= p_{n-1}=\frac {1}{3}-\frac {1}{3}\left(-\frac {1}{2} \right)^{n-1}(n\geqq 2)} 

である。これはn=1でも成り立つ。

 よって求める確率は

  {\displaystyle p_n+q_n= \frac {2}{3}-\frac {1}{6}\left(-\frac {1}{2} \right)^{n-1}} 

( 2 )

 条件を満たすのは、左からn-1番目の文字が{\rm A_2}で、かつn番目の文字が{\rm B}であるときである。よってその確率は、( 1 )より

  {\displaystyle q_{n-1}\cdot\frac {1}{6}= \frac {1}{18}+\frac {1}{9}\left(-\frac {1}{2} \right)^{n-1}} 

 

 


 他の問題も解いてみましょう。

“東大・京大の確率完全解剖”のトップページはこちら

uts3himath.hatenablog.com

 

私は嘘つきです。

今回は論理学のお話です。(高校数学とはあまり関係ありません)

 


  私は嘘つきです。

 

 ...とA君が言っているとしましょう。

 さて、A君は正直者でしょうか?それとも嘘つきでしょうか?考えてみてください。

 

 

 A君が正直者だと仮定しましょう。

 すると、A君の「私は嘘つきです」という発言は本当のことなので、A君は嘘つきになります。

 あれ、最初の仮定と矛盾してしまいましたね。

 

 今度は、A君が嘘つきだと仮定しましょう。

 すると、A君の「私は嘘つきです」という発言は嘘なので、A君は正直者ということになります。

 あれれ、今度も矛盾してしまいましたね。

 

 

 A君が正直者だと仮定しても嘘つきだと仮定しても矛盾が生じてしまいました。そうなんです、A君は正直者でも嘘つきでもないんです!

 


  上のA君の発言を数学の言葉を使って言い換えると次のようになります。

   この命題は偽である。

 A君のときと同じように、この命題の真偽も定まりません。命題なのに真偽が決められないって、変ですね。

 

 この話は、「自己言及のパラドックスと言われています。普通の命題は真偽が定まりますが、“自分自身について言及してしまった命題”は真偽が定まらないものもあるのです。

 

 「自己言及のパラドックス」、考えれば考えるほど面白いですね。真でも偽でもない命題が存在するなんて。これには先人達も頭を悩まし、実際に論理学や哲学の発展にも繋がったそうです。

  


  では最後に、この「自己言及のパラドックス」の派生として、ラッセルのパラドックスを紹介します。これは集合論のお話です。少し難しいので、しっかり頭を使いながら読んでください。

 

 集合とは何らかの要素をいくつか集めたものですが、その要素には特に制限がありません。ですので、自分自身を含む集合というものを考えることができます。

      A\in A

式で書くとこうなります。

 ここで、集合全体を、

 「自分自身を含むもの」と「自分自身を含まないもの」

に二分します。そして、前者をX、後者をYとしましょう。例えば、先のAは自分自身を含むのでA\in Xとなります。

 すると、XYも集合の1つなので、XYのどちらか一方に属すことになります。では、Yは、XYどちらに属すのでしょうか?

 

 

 Y\in Xと仮定します。すると、もちろんY\notin Yとなりますが、Xとは「自分自身を含むもの」全体の集合なので、これはY\in Xに矛盾します。

 

 今度はY\in Yと仮定します。すると、Yとは「自分自身を含まないもの」全体の集合なのに、自分自身を含むことになってしまうのでこれは矛盾です。

 

 

 このように、YXに属すとしてもYに属すとしても矛盾が生じるので、YXにもYにも属さない謎の集合となってしまいました。これが「ラッセルのパラドックス」です。

 

 以上のように、集合の要素として何でも許してしまうと矛盾が生じてしまうので、集合の要素には何らかの制限をかけなければいけないことがわかります。これは集合論の発展にも寄与しました。

 


  よくよく考えてみればおかしなことって、実はそこらに転がっているんですね。これは神様の設計ミスなのでしょうか?色々考えさせられます。

 

 この話に興味をもった人は、論理学を勉強してみてください!では!

テイラー展開のキモチ

 今回はテイラー展開のイメージについてお話しします。

 

  対象者:極限の背景を知りたい受験生

      物理でよく出る近似の原理を知りたい受験生

      テイラー展開に悩む大学生

  到達水準:テイラー展開のイメージが湧いた!

       簡単な関数のテイラー展開は自分で求められる!

 


 突然ですが、問題です。

   {\rm sin}0.1を求めよ。 

どうですか?関数電卓でも使わないととても求められるような値ではありませんね。

 

 それではこれならどうでしょう?

   0.1-2\cdot 0.1^2を求めよ。

{\rm sin}0.1のときとは違い、いとも簡単に0.08と求められたのではないでしょうか。

 

 このように、{\rm sin}xのような関数は(特別な場合を除き)具体的な値を求めるのが難しいのですが、x-2x^2のような整式の場合、具体的な値を求めるのは多くの場合簡単なのです。

 すると、次のような考えが浮かんできます。

   {\rm sin}xを、整式で近似したい......!

 整式で近似できたら計算が楽になりますからね。

 


 では、実際に{\rm sin}xが整式で表せたと仮定しましょう。(この仮定については、ページ最下部の※を読んでください)

  {\rm sin}x=a_0+a_1 x+a_2 x^2+...+a_k x^k+...

ここで、a_0,a_1,a_2,...は係数です。それでは、この係数を具体的に求めてみます。どうすればよいのでしょうか?それは、「代入」によって解決します。

 

 まずはこの式にx=0を代入してみましょう。

  {\rm sin}0=a_0+a_1 \cdot 0+a_2 \cdot 0^2+...+a_k \cdot 0^k+...

  \therefore 0=a_0

よってa_0=0であることがわかりました。

 

 次にa_1を求めたいですね。しかし、同じようにxに何を代入しても、うまく○=a_1の形になってくれません。そこで、代入する前に微分をしてみます。

  {\rm cos}x=a_1 +2a_2 x+3a_3 x^2+...+ka_k x^{k-1}+...

 ここでx=0を代入してみると、

  {\rm cos}0=a_1 +2a_2 \cdot 0+3a_3 \cdot 0^2+...+ka_k \cdot 0^{k-1}+...

  \therefore 1=a_1

と、うまくa_1=1と求めることができました!

 

 もう一回やってみましょう。まずは微分して

  -{\rm sin}x=2a_2 +3\cdot 2a_3 x+4\cdot 3a_4x^2+...+k(k-1)a_k x^{k-2}+...

x=0を代入して

  -{\rm sin}0=2a_2 +3\cdot 2a_3 \cdot 0+4\cdot 3a_4\cdot 0^2+...+k(k-1)a_k \cdot 0^{k-2}+...

  \therefore 0=2a_2

と、a_2=0が求められましたね。

 

 これを何度も続けていけば、

  {\displaystyle a_3=-\frac{1}{6},a_4=0,...,a_{2m-1}=\frac{(-1)^{m-1}}{(2m-1)!},a_{2m}=0,...}

と係数を決定することができます!

 


 以上のように、{\rm sin} x

  {\displaystyle {\rm sin} x=x-\frac{1}{6}x^3+\frac{1}{120}x^5+...}

  {\displaystyle =\sum_{m=1}^{\infty}\frac{(-1)^{m-1}}{(2m-1)!}x^{2m-1}}

と表せることがわかりました。

 この式を用いて、{\rm sin}0.1を近似してみましょう!

 

 3次の項までを考えて、

  {\displaystyle {\rm sin} x\simeq x-\frac{1}{6}x^3}

とします。これにx=0.1を代入すると......

  {\displaystyle {\rm sin} 0.1\simeq 0.1-\frac{1}{6}\cdot 0.1^3}

   =0.09983333\cdots

と、{\rm sin}0.1の近似値を求められました!

 {\rm sin}0.1の値を関数電卓を用いて計算すると

  {\rm sin}0.1=0.09983341\cdots

となります。とてもよい近似値であることがわかりますね。こんなによい近似値を人間の手で簡単に計算できるなんて、大発明です!

 

 この

  {\displaystyle {\rm sin} x=x-\frac{1}{6}x^3+\frac{1}{120}x^5+...}

  {\displaystyle =\sum_{m=1}^{\infty}\frac{(-1)^{m-1}}{(2m-1)!}x^{2m-1}}

を、{\rm sin}xx=0を中心とするテイラー展開といいます。

 


 上では{\rm sin}xテイラー展開を求めましたが、一般の関数f(x)テイラー展開は、

  {\displaystyle f(x)=f(0)+f^{\prime}(0)x+\frac{f^{\prime \prime}(0)}{2}x^2+...}

  {\displaystyle =\sum_{k=0}^{\infty}\frac{f^{(k)}(0)}{k!}x^k}

となります。これは{\rm sin}xのときと同様に示せます。

 

 これを用いると、

  {\displaystyle {\rm cos}x=1-\frac{1}{2}x^2+\frac{1}{24}x^4+...}

  {\displaystyle =\sum_{m=0}^{\infty}\frac{(-1)^m}{(2m)!}x^{2m}}

  {\displaystyle e^x=1+x+\frac{1}{2}x^2+...}

  {\displaystyle =\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{k!}x^k} 

  {\displaystyle {\rm log}(1+x)=x-\frac{1}{2}x^2+\frac{1}{3}x^3-...}

  {\displaystyle =\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^{k-1}}{k}x^k} 

  {\displaystyle (1+x)^m=1+mx+\frac{m(m-1)}{2}x^2+...}

  {\displaystyle =1+\sum_{k=1}^{\infty}\frac{m(m-1)\cdots(m-k+1)}{k!}x^k}

のように、様々な関数のテイラー展開を求められます!

※最後の式において、m自然数とは限らない実数です。つまり、この式は二項定理の拡張です。

 

 これらのテイラー展開を見ていると、物理で度々出てくる

  {\rm sin}x\simeq x

  {\displaystyle {\rm cos}x\simeq 1}

  {\displaystyle (1+x)^m\simeq1+mx}

の近似の意味がわかりますね!これらの近似の背景にはテイラー展開があったのです。

 

 また、極限で度々出てくる

  {\displaystyle \lim_{x \to 0} \frac {{\rm sin} x}{x}=1}

  {\displaystyle \lim_{x \to 0} \frac {1-{\rm cos} x}{x^2}=\frac {1}{2}}

  {\displaystyle \lim_{x \to 0} \frac {{\rm tan} x}{x}=1}

  {\displaystyle \lim_{x \to 0} \frac {e^x-1}{x}=1}

  {\displaystyle \lim_{x \to 0} \frac{{\rm log}(1+x)}{x}=1}

の背景にもテイラー展開があるのです。例えば、 

  {\displaystyle {\rm log}(1+x)=x-\frac{1}{2}x^2+\frac{1}{3}x^3+...}

より

  {\displaystyle \lim_{x \to 0} \frac{{\rm log}(1+x)}{x}=\lim_{x \to 0}\left(1-\frac{1}{2}x+\frac{1}{3}x^2+...\right)}

   =1

と極限を求められるのです。

 このように、極限でもテイラー展開は役に立つのです!大学に入ると、極限を求めるのにテイラー展開をむしろ多用するようになります。

※この計算式は、大学入試の答案には書いてはいけません。あくまでも検算用としてお使いください。

 受験生で、極限をまだ得点源にできていない人はこちらをお読みください。

uts3himath.hatenablog.com

 

  


 以上のように、テイラー展開は簡単に求めることができる上、近似や極限に非常に役に立つのです。大学生の方は、これで単位をもぎとってください。受験生の方は、入試問題を少し上の視点から眺められる優越感に浸ってください。

 

※上でも少し述べたように、これはあくまでもある「仮定」の下での議論です。ですので、この「仮定」から外れてしまう場合はテイラー展開できません。例えば、{\rm log}(1+x)テイラー展開できるのは-1\lt x\leqq 1の場合のみなのです。このようなテイラー展開の厳密な理論に興味をもった方は、大学でじっくり学んでください。

 

 

 次はテイラー展開を用いてこの世で最も美しい数式を導いてみましょう。

 

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