白いマスク 第1話

「今風邪気味なんだよね」

言い終えてから相手が何故この人がわざわざそんな事を言ったのか

気にしていない様だったので安心した。

嘘を付いたせいだろうかモヤモヤしたものが胸の中に広がって行くのを感じた。

 

 ゴールデンウィークが明けて、花粉症のシーズンが終わりかけ確かに街でもマスクを

付けている人はだんだんと減って行き

家の近くの薬局でも商品の陳列が変わり店に入って最初に目に入る商品はマスクから

日焼け止めに変更されていた。

 

それでも4月入社して、一ヶ月の研修期間を終えたこの新入社員は佳奈が時期ハズレのマスクをつけている事に違和感を感じてはいない様だった。

わざわざそんな事を言ったのは朝のニュースで

 『マスク症候群』、『ファッションマスク』が取り上げられていたからだろう。

街角でアンケートを受けている大学生らしき女性はマスクを向けるアナウンサーに

対して素顔に自信がないから、化粧が間に合わない時につけると

テレビに映るということから浮かれているのか笑って答えていた。

 

ある時から、佳奈は人前でマスクを外せないでいた。

母親似の切れ長の二重瞼に比べて、父親に似た上がった鼻先と前に出た歯で上手く閉じ切ることができない口は思春期の頃からのコンプレックスだった。

容姿に自信が持てないのは今よりもずっと前からだっただろう

しかし、佳奈がマスクをつけるようになったのは5年前の事だった。