がんになった時、何を読むか1:書店のコーナー

まず、何を読むべきか、の前にもっと大事なこと。

家庭の医学コーナーには行くな!

まともな本がほとんどない。絶無というわけではないのだが、圧倒的に少ないので近寄る必要はない。まあぶ厚い『家庭の医学』類は大丈夫だけど、それなら学校への付き合いで成り立っている零細本屋さんで十分。

看護学生向けのコーナーに行け!

がんの診断を受けるようなクラスの病院なら、最寄り駅の一番大きな書店には、看護学生向け(看護師も使っているかもしれないけど…)のコーナーがあるはず。そこに行け。
難しそう? 自分の命がかかってるんだから頑張って理解しろ。
家族の車で来ている? ↑上に同じく。 なお、病院行くときは、予定に無い検査とか入る可能性があるから運転できる家族の付き添いがある時以外は自分の車は止めた方が良いと思う。同じ理由で、血液検査のこと考えて食事は摂らない。

メモ:予算折衝上のおもちゃになってしまった高額療養費問題

前のエントリーからずいぶん経ってしまった。問題は全然解決していないけれど、まとまった文章を書く時間は当分持てそうにないので、ちょっとメモを。

どうも高額療養費問題というのは、予算折衝上のおもちゃになってしまった感がある。毎年、主に低所得者向けのほんの僅かな、それでも実現すれば救われる人はたくさんいる、案が提示される。政府も一生懸命考えていますよ。 それは高額所得者(という名目だが実質「高額」とはとても言えない層も含まれる)の高額療養費負担増とセットになっていることも多い。でも、イメージ的に「高額所得者」という呪文は大きい。 しかし、結局そういった諸案も財源不足なりなんなりで立ち消えていく。 報道に一喜一憂する患者の気持ちを少しでも考えたことがあるのだろうか?

こういう、患者の気持ちをもてあそぶようなことは、もう止めてほしい。

そして、「財源問題」の土俵に乗ってはいけない、ということはますます明らかになってきたものと思う。必要性が高ければなんとしても実施すべきだし(低所得者向け負担軽減はまさにそれだ)、逆に負担増をお願いすることも財源難の今では必要かもしれない。しかし、Aの政策を実現するためには財源が必要だから、同じ領域――たとえば高額療養費――の中でBという負担増政策―所得の相対的に高い層から際限なく増額するとか――を求めるというのは一種の人質論法だし、これに乗っかってしまうこと自体がいけない。

高額療養費は、がんの治療に関わる場合が多い。がんという病気の治療は、治療後や治療中も働き続けることができる――不幸にして転移再発して死に至る場合でも、相当後まで労働やそれに相当する活動を行なうことができる。つまり、医療費だけの問題ではなくて、治療後の労働による社会還元分なども考慮しなければならない。 高額療養費を考える際には、これを忘れてはいけない。

もともと高額療養費は、手術など1回で多額な医療費がかかる場合を元に考えられてきた。これは、現在でもとくに低所得者にとっては切実な問題である。 しかし、所得の高い層にとっては、少し負担増(限度額を上げる、とか免除ではなく分割払いとする、とか)を求めても良いかもしれない。

しかし、現在、高額療養費で一番大きな問題は、分子標的薬など高額の抗がん剤(広義)を延々と払っていかねばならないことで、今後がん治療が進むにつれてますます大きな問題になっていくと思われる。おそらく、胃がん全般や大腸がん全般に効くようなものはなく、胃がんのうちでも遺伝子のこの部位が変化したものに対応した分子標的薬、というのが増えていくと思われるからだ。〜がん全般に効かなければ、当然かなり高額なものになるだろう。 これらの支出についても所得による切実度の差は無視できないくらいに大きいが、そうは言っても毎月毎月25万円の分子標的薬出費に耐えていける層というのは日本ではほとんどいないと思う。しかし、厚労省は一度とはいえそのような案を出してきたし、その際の「高額所得者」と言われた層の最低層は、現実にはとても「高額所得」と言えるものではなかった。

高額療養費の問題は、小さな健康保険組合にとっては一人いるだけで死活問題になるときがあり(実際にそのため該当者に脱退してもらおうという働きかけがあった例も報告されている)、より大きな問題と繋がる。それでも、上で述べたように、医療費だけで考えたら絶対にダメなので、ほとんどの場合、治療中も働き続けることができる、ということも含めた上で、どのように国民が医療費を負担していくか、考えていかなければならない。 最悪なのは、狭い「高額療養費」の枠内だけで負担減負担増をセットでまかなおうという考えで、これだけは明確にノーと言わなければならない。

といった思いつきをダラダラ書いてみました。

削除告知

削除告知

「2013年8月末日を目途に削除いたします」と予告していた14エントリー、ようやく今日削除しました。「消す消す詐欺」になってしまっていてすみませんでした。ながらくのご愛読ありがとうございました。次回作にご期待ください。なお、削除予定告知も削除いたしました。

がん患者が頑張って高額療養費について書いたらNATROMという医師にネチネチと絡まれた1年前

私はがん患者というよりは、がん経験者といった方が自他共に意識に合うが、早期の胃癌の手術後ほど楽観的にもなれないので、ここでは両方の言い方を適当に織り交ぜて使う。

はじめに:2011年の厚労省案と議論

高額療養費の改定について、厚労省の案が示された。中所得者の負担軽減について見出しにしているところが多く、もちろんそれも重要だが、「しんぶん赤旗」の記事のように年間上限額が設けられることの方が、より利用者にとっては大きいと思われる。
財源についてがむしろ注目されており、厚労省案の受診時定額負担に対して賛否両論ある。
今回の改定についての資料・記事については、いちいち挙げていくのが面倒なので、私のブクマを参照されたい:はてなブックマーク - 高額療養費医療費に関するZarathustra1951-1967のブックマーク
高額医療費に年間上限/厚労省 低・中所得者の負担軽減もが新聞記事では一番良いと思う。
【PDF】資料2高額療養費の見直しと受診時定額負担について(第46回社会保障審議会医療保険部会配付資料)2011年10月12日社会保障審議会第45回医療保険部会審議会議事録|厚生労働省2011年9月16日は資料として参考になる。

なとろむは激怒した:2010年案への反対に粘着

高額療養費の改定は昨年も議論されたが、結局見送りになった。昨年の案では、財源について高額療養費の枠内で、高額療養費を払う上位所得者に負担させる、というとんでもない改悪が含まれていた──このトンデモ策は今年の案ではまったく顧みられていない。
この昨年の案はてなブックマーク - アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタルに対して、

NATROM:

高額療法費制度の見直し。年収の高い人の負担引き上げ。基本的に賛成。保険料も、上限があるため、所得の高い人ほど負担が少ない。所得が高い人からはもっと取っていい。払う。

というびっくりするようなブコメを医師(自称だけどこれは信じる)が書いていたので、こちらもブコメを書いた:

安易に賛成してるブコメにゾッとした。年収800万台の人のグリベック負担、現状で軽すぎますか!? 年収をもっと多段階化する事と長期半永久的支出に対しての更なる減額が無ければ【考慮あるみたい;報道しろ!】絶対反対

私は確かに、高額療養費とは当時も現在も関係なかった(手術した時は関係したけど、これは一月だけ)。しかし、それでも、この改悪案を知ったときの焦燥感は、生半可なものではない。再発転移したとき、高額な負担がずっと継続するのはもちろん覚悟の上だが、その上限が月18万あるいは割と微妙な線だが月25万となると、さすがに生活が破綻してしまう。社会保障一元化の論議とも関連するが、親に対して今後いくらかかるかなど見当も付かないのに。
(こういう当事者の焦燥感は、まわりにはなかなか理解されないのかな、と難病対策を巡る議論~備忘録として - Togetterと見ていて思った。もちろん、現在の問題であるこの人に比べれば、全然どうということはないが、がんのような病の場合、元気な人が啓蒙していくことも必要だと感じている。)
さて、ここまでは、こちらが後にブコメを書いたので、相手は知らなかったのだろう。しかし………2010-11-01にたいして、はてなブックマーク - お金の切れ目が命の切れ目 - NATROMのブログで以下のようなidコール付きのブコメをどうにも我慢できずに書いてしまった:

給与所得800万(手取30万台後半位?)だと高額療養費でも自己負担額は月額15万に一挙に跳ね上がる。更にそれを18万に上げようとする試算報道にid :NATROMは賛成している: はてなブックマーク - アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタル
(idコールはここでは無しにしている)

なとろむ激怒
はてなブックマーク - はてなブックマーク - アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタル

NATROM:

id:Zarathustra1951-1967さん。じゃあ、財源どうするんですか?「年収をもっと多段階化する事と長期半永久的支出に対しての更なる減額」で問題解決するとは思っていないでしょ?

正直、ここまで攻撃的な調子で絡まれるとは思っていなかったので、この段階でかなり動揺してしまった。

↓「〜が無ければ絶対反対」というのは、〜が満たされれば賛成することも有りうる、と普通読みませんか?それより「年収800万台の人のグリベック負担、現状で軽すぎますか!? 」のお答えは?

こちらからも訊いて、話を続けてしまったのは大失敗だった。ただこちらは(相手には分からないかもしれないけど)がん患者の現実に直結する不安を述べただけなんだけど。
怒りに狂ったNATROMはさらに続ける:はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタル

NATROM:

id:Zarathustra1951-1967さん。「年収800万台の人のグリベック負担、現状で軽すぎる」とは思いません。どなたか「現状で軽すぎる」などと主張していたのですか?で、財源どうするんですか?年収をもっと多段階化…で解決?

いや、なんでがん患者が医師にこんなこと言われるんだよ(泣)。本当に泣きたくなったが、とりあえず返した:

↓確認しておきたいんだが、具体的な数値が上がっており見出しにもでっかく「800万円で線引き」と書いてある記事に留保なしで「基本的に賛成」とコメントするというのは、その額や線引きに同意してることになるんだよ

勝ち誇るなとろむ:
はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - asahi.com(朝日新聞社):高額医療、負担引き上げ試算 年収800万円で線引き - アピタル(医療・健康)
NATROM

「財源どうするんですか?年収をもっと多段階化…で解決? 」という質問に答えなし。どのような線引きでも額でも、万人の負担が軽いってことはありません。誰かは不満。100字で答えにくいならコメント欄でどうぞ。

今でもそうだが、高額療養費について強い関心抱いているのは、医療ジャーナリスト以外なら患者か家族くらいだぜ!少なくともその可能性くらい思いついても良さそうなもんだが、「自分が批判された」ということがよほどこの医師のプライドを傷つけたらしい。
こいつと論議する気など、はなから無かったが、高額療養費制度の問題点と今回それがさらに改悪されようとしているをもっと知ってもらおうと思って、ブログに次のエントリーを書いた:
医療:高額療養費見直し試算に関しての備忘録 - Zarathustra1951-1967の日記
さらに、これをなとろむにも知らせた:
はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - asahi.com(朝日新聞社):高額医療、負担引き上げ試算 年収800万円で線引き - アピタル(医療・健康)

http://d.hatena.ne.jp/Zarathustra1951-1967/20101102/p1 に関連する記事を書いたよ。ただし、この件に関してあなたともう会話する気はありません。時間と労力の無駄。(タワー見学者が多いな。☆じゃなくエントリ書いてほしい人いる)

ここでの致命的失敗:この書き方では、まるでNATROMに反論するためにブログを書いたように読めること。こんな奴と話すつもりはないし、材料はもっと前から集めていたのだが、それが伝わらなかったのは口惜しい。とはいえ、ごく普通に読めば、事前に準備せずにこんなの書ける訳無いのは了解されるだろうし、内容も別になとろむのコメントに反論するためだけ、なんて狭いものでないことは一目瞭然のはず。
それでも、まあここまではいい。ブログのエントリーを書くまでは、私がどういう立場で改悪案に反対するのか全く述べてないからね。

閑話休題1

ところで、上のメタブクマに対して、私は「↑タワー見学」「記念☆御一行様」というタグを使っている。これは現在は消えているが、当時(たぶん全ての)メタブクマに対して自動的にたくさんの人がスターを付けるようになっていた。その中には、はてな界隈の超有名人もいた。どういう仕組みかは分からないし、スターを付けた人は単にこんにちはこんにちはという挨拶代わりのつもりだったのかもしれない。ただ、ちょっと不謹慎に思えたので、このタワーとは別のメタブクマでそれを注意したら、しばらくするとこれらのスターは綺麗に消えていた。

私はブログを書いて、自分ががん患者であることを強く示唆した

医療:高額療養費見直し試算に関しての備忘録 - Zarathustra1951-1967の日記 これは、いっしょうけんめいに書いた。そして、その中に次のような表現を入れておいた:

私にとってはここの記事に書かれていることは現実の懸念(と一筋の光明)であることをご了解いただけますと幸いです。

わざわざ「現実の懸念」を太字にしたのは、関係者すなわち患者か家族、であることを強く示唆するため。

いや、本当に月々10万円の支出が続く状況になったらどうしよう?というのは頭から離れませんから。

同じ、いな、家族というより患者本人でないと、こういう表現はしないだろう。

こういうふうに見てくると、新聞報道ではまったくなされなかった【PDF】高額療養費制度について 「高額長期疾病(特定疾病)に係る高額療養費の特例について」p.7(pdf.8/13)、「自己負担の軽減について要望がある疾病の例」p.8(pdf.9/13)について、まず配慮してほしい、というのが切なる願いです。

「切なる願い」というのも、患者家族以外は使わないだろう。

患者の掲示板とか見ていても、この層の現行制度での負担は洒落じゃないレベルと感じます。

「患者の掲示板」て、見たことありますか?
分かる人には分かる書き方で、自分ががん患者であることを強く示唆したつもりだ。もちろん、はっきりとは述べなかった。ろくに読まずに他人に追従したり騒ぎ立てる者たちにまで知らせるつもりは無かったから。
ただ、医師とかなら、上のような表現で、引っかからないはずが無い。

閑話休題2

なお、ブログエントリーの最後:

あと追加:「がん保険」っていろいろあるけど、高額療養費で十分に保障しきれない高額な抗がん剤の長期服用、がちゃんと保険内容に入っているかどうかは確認しておいた方が良いですよ。少なくとも謳い文句の中には見えないものも多いから。

アフラックを例に挙げてみる:
生きるためのがん保険Days1:特長・保険料例|保険・生命保険はアフラック
生きるためのがん保険Days1:特長・保険料例|保険・生命保険はアフラック
↑のページの「抗がん剤治療」の左にある警告マークは

上皮内新生物は保障の対象外となります。

上皮性の癌だけ、ということで、高額療養費の例で必ず出てくるグリベックが効く慢性骨髄性白血病はたぶん、消化管間質腫瘍は確実に含まれない。要はグリベックについては、払いませんよ、ということのようだ。
もう一つ:

がん患者の消費性向はかなり高いものになるだろう、と私は予想しています。

これについては、ほぼ同じような内容をぐっちーさんの記事で見た記憶があるのだけど、見つからない。他の人かな?でも、これはおそらく間違いない。治療費についての不安を解消すれば、貯蓄から消費にお金が回るようになるだろう、というのは絶対に忘れてほしくないことだ。
さて、本題に戻る。私はブログを書き、自分ががん患者(経験者)であることを強く示唆した。すると……

なとろむは構わずに粘着を続けた

はてなブックマーク - 2010-11-02 - Zarathustra1951-1967の日記

NATROM:

現行の制度にさまざまな問題がある点は同意。しかし「財源どうするの?」という疑問には結局答えなし。改善案への賛意に対する「最適案でないものに賛成するのはひどい」というコメントには違和感を感じる。

はてなブックマーク - はてなブックマーク - 2010-11-02 - Zarathustra1951-1967の日記

NATROM:

800万ではなく年収1000万の人の負担を増やす案に賛成するのもひどいのかな? 最適な案でなければ賛成してはならないのか? http://d.hatena.ne.jp/NATROM/00101104#p1

これらには、さすがの私も強い衝撃を受けた。がん患者であることが分かる、少なくともその可能性が低くないことが容易に推測できる、ようになって、なおこんな言葉遣いを直接吐ける医師がいようとは思っていなかった。甘かった、といえば、それまでだが……
テレビやネットで、「難病に苦しむ人、稀少がんに苦しむ人」を見ることがあるだろう。そうした人たちが、なにか要求するとき、彼らに直接

「じゃあ、財源はどうするのか!?」

と貴方は詰問するだろうか?ここでNATROMがやっていることは、まさにそれだ。
もしかして、わたしががん患者であることに気づいてない?
でも、あのブログ普通に読めば、少なくとも"がん患者がん経験者というのがありふれた存在であることを知っている医療関係者"なら、当然分かるはずだ。少なくともその可能性が低くないことが頭に浮かばなかったら、そいつは医師でない。そもそも、こんなことにここまで詳細に調べて書くのが、患者家族以外にいるわけ無いだろう!?
それとも、本当に、激怒で頭に血が上っていたのだろうか?批判された自分のプライドを守ることだけを考え、相手がどういう思いで発言しているか全く考慮しない、それはそれで恐るべき驕慢だ。
NATROMは、やっとの思いでエントリーを書いたがん経験者をさらに平然と追い詰める:
10-11-04
このおぞましいエントリー、久しぶりに勇気を出して読んだ。
やはり、怒りで身体が震える。
がん患者経験者が自分の要求を細々と伝えようとしているだけなのに、なんで医者にこんなこと言われなければならない!?

「遠い将来や極端でありそうも無い例を考えても仕方ない」のは、そうかもしれませんが、「お金の切れ目が命の切れ目」のエントリーを、今回の高額療法費制度見直しと結び付けたのは、私ではなく、Zarathustra1951-1967さんです。

いったい、なんの権利があって、こいつはこんな言葉投げつけられるんだ!?
医療関係者でもない人間が、あれだけのエントリー書くのが、どれだけのことか、なんてこいつは想像したことすら無いんだろう。こちらは、もちろん、普通に仕事しながら、だ。
ちなみに、なとろむがむきになって擁護しようとした昨年の案、今年はもう誰も顧みない──(正確に言えば、諫早医師会の高原委員はそう言おうとしているのかもしれないが、私には彼が何を言ってるのか全然理解できない;この点に関して彼に賛同する者も議事録にはいない。)財源については、患者全体から徴収しようというのが厚労省の受診時定額負担で、それに反対する対案も保険から、あるいは税金から、とより広く負担を求めている。上位所得者から厚めに取ろうという案はあるかもしれないが、高額療養費を払う上位所得者から、という恐ろしく狭い枠では、もう考えられていない。

がん患者の要求の芽を平気で摘もうとするなとろむ

そもそも、私には、なんでこんなことを、web上で「論議」しなければならないのか、さっぱり分からない。これは、私ががん患者であろうが無かろうが関係ない。
たしかに、学問上の意見の相違であれば、web上の論議が有効であることがあるかもしれない(私はそれですら否定的だが)。
しかし、これは性質が全く違う。様々な人々の要求のうちから、どれを実現していくのか図るのは「政治」の課題だ。そしてそれを決めるのは、政治家であり、原案を出す審議会や官僚だ。
お前が決めるのではない。俺でもない。
ただ、ともかく、要求は出さなければ始まらない。実現しない。要求を持ち寄って、調整する。要求を出す段階で決して押さえつけてはいけない。出し合ってから調整するものだ。
NATROMが一連のコメントやエントリーでやろうとしていたことは、簡単に言えば、その要求を出す前に、取り下げさせよう、というものだ。がん患者の要求の芽を摘もうとしただけだ。何の意味も無い。議論の必要もない。あるいは議論するにしても、その相手はお前ではない。現実の医療行政と結びつかない者相手に消耗するのは時間の無駄だ。

ウェブの中だけの王様

結局、なとろむの関心は、現実の医療行政をどうにか働きかけてこうしよう、ということでは無いんだろう。
ウェブの中での自分の名声と権威を守ること、それがまず優先されるんだろう。ウェブの中だけの王様だ。
高木浩光さんのような行動:

あるいは早川由紀夫さんのような行動

そういう風に、現実に働きかけよう、という気は元々無いんだろう。
(ただし、後で述べるように、ヒューマニズムが見られる面を完全に否定してるわけではない。誤解しないように。)

閑話休題3

高額療養費といえば、必ず名の挙げるグリベック。これは慢性骨髄性白血病と消化管間質腫瘍に効く。
がんサポート ■2011年8月号 内容 ■患者のためのASCO特集で、巨乳グラビアアイドル写真家の山岸伸さんも、慢性骨髄性白血病を患って、グリベックの副作用が非常につらい、って延々と書かれている。そういえば、グラビアアイドル写真家の渡辺達生さんもなにかのがんだった。。
ところで、『がんサポート』という雑誌の存在はぜひ知っておいてほしい。多くの公共図書館には所蔵されていると思う。とくに、がんであると分かったときには、精神的にも効果ある。普通の本屋の病気コーナーには、怪しげな代替医療の本がかなり目に付く。患者の気持ちとかいろいろな人が綴っていて、力になる。

twitterで患者を小馬鹿にする医師たち

NATROMについては、半月ほど前のtweetも良い傍証になる。、
アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタルの中での、患者の発言について:
はてなブックマーク - アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタル
これは、同時にtweetでもあるので、以下、twitterの方で追ってみる。
一見すると:

という流れだけ目に付いて、NATROMの最初の発言も、真意は二番目の発言の通りなんだよ、で納得してしまいそうになる。
しかし、実は違う。
まず、前提として、@NATROM,@fuka_fuka_mfmf,@ERnanchan この3人はすべてお互いがお互いをフォローしている、したがってタイムライン上にツイートが流れてくる、ということを確認する。以下、3人のツイートを時間順に並べてみる:
http://twitter.com/#!/fuka_fuka_mfmf/status/125041803492720640

"おなかを開かないとわからないが、できるだけ卵巣などは残したい" →卵巣切除→ "「説明と違う」とショック" 「悪い→良い」の順で可能性を説明した後で「悪い」が実現すればこうなるのは必然か。 http://htn.to/nBJCFR

http://twitter.com/#!/ERnanchan/status/125042936890142720

@fuka_fuka_mfmf 多分、音情報として医療車の口から発せられ、空気の振動としては相手の鼓膜を揺らすところまで最低行ってて、それから微細な電気信号に変わり、脳内で認知され、さらに記憶野に保管されるまでのどこかで、その信号が減衰したのではないかとは思われます。(推定)

この言い方が重要である。単に「慌てていて、細かいところまで理解できていないのでないか」という言い方なら、何も問題ない。しかし、「音情報として……」というペダンチックで嫌味な言い回しをわざわざする理由を、患者を小馬鹿にしているから、以外に求めることができるだろうか!?
http://twitter.com/#!/NATROM/status/125043870806441985

「おなかを開かないとわからないが、できるだけ卵巣などは残したい」「説明と違う」。違わないんだけどね。で、この手の誤解を避けようと厳し目の説明をすると、「不安にさせる説明ばっかり!責任回避」と言われる。 http://htn.to/e6L2q3

http://twitter.com/#!/fuka_fuka_mfmf/status/125043898836987904

@ERnanchan 減衰を考慮して初めから「開いてみて転移しているのが分かったら、卵巣も切除せざるを得ません」と強めの信号を発しておくと、今度は「医者が脅す」「逃げの姿勢だ」等々の反応を引き起こす可能性も、という話ですね(推定)

先の嫌味な言い方を受けている(私は最初NATROMのツイートを見ていただけだったが、この「減衰」というのが何を意味するか分からず──医学用語かと思った──、元のツイートを見て、びっくりした)。もちろん、何の批判もせずに。
http://twitter.com/#!/fuka_fuka_mfmf/status/125044086334955523

数秒差でNATROM先生と同じ話を書いてしまうなど

これは、上の二つのツイートのこと。
http://twitter.com/#!/ERnanchan/status/125044119918755840

@fuka_fuka_mfmf 正鵠

http://twitter.com/#!/NATROM/status/125045334907953153

RT @ERnanchan: ある循環器科の医師が、冠血管造営と待機的PCIの説明をERで行っていた。すると怒号。「おまえは、そんなことばかり言って、責任逃れするもりだろ!」 と。 こういう反応を予見しつつ、朝日の記事のような不満を予見しつつ、その間をぬって、説明す ...

http://twitter.com/#!/ERnanchan/status/125045458480537601

ある循環器科の医師が、冠血管造影と待機的PCIの説明をERで行っていた。すると患者のこんな怒号。「おまえは、そんなことばかり言って、責任逃れするもりだろ!」 こういう反応を予見しつつ、朝日の記事のような不満も予見しつつ、その間をぬって、説明するのってかなり難しい。

(前後関係がちょっと変。一回消して再ツイート?)
http://twitter.com/#!/NATROM/status/125045462360260608

@fuka_fuka_mfmf ( ´∀`)人(´∀` )ナカーマ

「数秒差で…」を受けている。
この後もしばらくこの話題が続くが、発端が大切なので、省略する。

多分、音情報として医療車の口から発せられ、空気の振動として……

減衰を考慮して……

( ´∀`)人(´∀` )ナカーマ

という流れ。上に述べたようにお互いがフォローしているし、まさに

( ´∀`)人(´∀` )ナカーマ

なんだけど、これで患者を馬鹿にしていない、という説明は絶対通らないだろう。
いや、それでも、と弁護したくなる人は、ちょっと考えてもらいたい。他職業の「まともな人」がこういうツイートするか!? 客に対して、こんな嫌味な表現するか!?
まっとうなホテルスタッフ(もちろん客とのトラブルには事欠かない)がこんな呟きすると思うか?
コンビニなんて、迷惑な客の宝庫だろうけど、たとえば、http://d.hatena.ne.jp/nakamurabashi/さんがこういう表現するか!?
でも、彼らは平気で書ける。患者を小馬鹿にしたツイートを呟いて、それに返信する。繰り返すが、他の職業の真っ当な人はこういう表現自体をしないよ。
これが「増長」以外のなんであろうか。
私が怖れているのは、彼らにはこれだけ指摘しても、自分たちが上述の表現で患者を小馬鹿にしている、ということを理解できないのではないか、ということである。そこまではいってないと信じたいが、そうでなければ事態は本当に深刻だ。
がん患者、さらにはこの記事の本人や関係者が見る可能性を考えないのだろうか?
(なお、このアピタルの記事に対するNATROMたちの評で気になったのは、この件が現在でなく10年前に起こっていることを本当に意識しているのか、ということである。裁判所 | 裁判例情報で「医師」「説明義務」などで検索しても、高裁での判例が増えてくるのが10年前くらいのように思える。今ならともかく10年前なら、まだ不十分な説明[最初の手術時]もありえたのではないだろうか。)
もちろん、医者にも同情すべき点はある。説明義務に関して医療過誤判例 重視される説明義務違反 - 明日を見る放射線治療医からで述べられるようなひどい判決も出ている。それを忘れてはいけない。しかし、それは患者を馬鹿にしていい理由にはならない。医療過誤バッシングで、医師たちの精神が歪んでしまった実例にはなるかもしれないが。
ちなみに、アピタルのこの記事を書いたのは、岡崎明子記者で、彼女は昨年夏のホメオパシー批判記事にも深く関わり、何本か記事も執筆している。

優れたエントリーもあるのでは?

なとろむさんには、優れた、ヒューマニズム精神に溢れた記事も数多くあるのでは?
確かにそうだ。それは間違いない。そして今後もそういうエントリーを書くであろうことも確信している。
しかし、それらは、自分が優位にあるときだけ、出てくるものではないか?自分の権威が揺らぎそうだと、あっさり捨てられるか、そこまでいかなくとも優先順位が大幅に下げられてしまうのではないか?
最初に挙げたidコールされてからの粘着ぶりを見ると、そうとしか思えない。
ただし、自分が優位にあるときだけ人間味溢れるのは、大多数の人だってそう。もちろん、私も。ただ、世の中には、そうでない稀な素晴らしい人もごく少数いるけど、私やなとろむはそれに属さない、ただそれだけのことだ。

ダメージの大きさ、萎縮させる効果

私が、http://ulog.cc/a/fromdusktildawn/7546読んで、肯定的なブコメ書いた理由は理解してもらえると信じる。
はてなブックマーク - 思考途中の記事を叩いてネットの最良の部分を潰してしまう人たち - fromdusktildawnのチャットコメント

他の多くの人々が思考途中の未熟な考えを記事にするのを思いとどまらせてしまう

このエントリーに対して、批判的な考えを述べたものに、そしてここまで読んでくれた全ての人に、あらためて理解してもらいたいことがある。
それは、がん患者・がん経験者が自らの要求を苦労してまとめたのを、医師が否定するだけでなく、その後も粘着する、というダメージは、普通の人が考えるのよりは遥かに大きいことである。
なとろむという奴に、他の分野のなにかを批判されても、どうということは無かっただろうし、高額療養費について、なとろむの追従者たちに何言われてもそうはこたえなかっただろうと思う。
しかし、患者がまとめた要求を医師に詰問口調で否定され、ネチネチと粘着される、という傷は深い。
この何ということない雑文を書けるようになるまで一年かかった。

お願い

なとろむが、私の気持ちを理解できる心を有してるとは思っていない。だから無論、謝罪などは求めない(そんな気は毛頭無いだろうが)。まぁ、本当のこと言えば、「がん患者・経験者であることを強く示唆する」と「明言する」との間には大きな差があるんだけど、それを越える葛藤なんて、想像したことすら無いだろう。ただし──:

真正直に自分の非もあえて認めて相手にも同調を求める日本流の方法は、見くびられるどころか、自分でも悪いと認めていながらそのくせ要求している、なんてずるい奴だ、不可解な日本人だ、と相手の疑念をさらに固めさせ本心から憎まれる結果を招きかねない。

高木暢夫『自分流儀の海外旅行術』NHK出版, 2002, p.88. isbn:4140880376

にあるように、謝りながら弁解するのは相手に対する最大の侮辱である、ということだけは了解してくれ。
その上で、現実の医療行政とはまったく何の関係もない、ただ自分の自尊心とweb上での権威を守るためだけの弁解をやりたいのなら、やるが良い。

2011年案に関して

不愉快な話題はこれだけにして:
医療:高額療養費見直し試算に関しての備忘録 - Zarathustra1951-1967の日記で述べたことのかなりが、今年の案には採りいれられている。年間上限額設けてくれれば、あそこで述べたような酷い逆転はなくなる。
まさか、読まれた?いや、それはアクセス数から見てありえない。
もちろん、上位所得者になるかどうかの僅かの収入の差で、相対的でなく絶対的な逆転がおこることは残っている。これを解消するには、所得税のように率で上げていくしかないが、それは今の段階では医療事務等考えるとまだ難しそうだ。
財源は大きな問題だ。私の意見はあるけど、あえて言わない。もう懲りた。
はてなブックマーク - 高額療養費医療費に関するZarathustra1951-1967のブックマークでいろいろな意見にリンクしてるので参照のこと。
ともかく、まだ部会で審議中。昨年のように結局取りやめになるかもしれない(昨年はそれで良かったが今年は絶対にそれではいけない)。じっくり見守っていきたい。
高額療養費については、今読めるものとして、以下のアピタルの連載を挙げておく。一人でも多くの人が、この問題に関心を抱いてくれるように祈ってやまない:

医療:高額療養費見直し試算に関しての備忘録

新聞記事

これらの記事について、以下、思うことを書きます。きわめて具体的な試算についての記事であり、以下の内容もそれに即した具体的なものとなります。これらの記事から離れた抽象論をグダグダ述べるつもりはまったくありません。現在は高額療養費のお世話になってはおりませんが、私にとってはここの記事に書かれていることは現実の懸念(と一筋の光明)であることをご了解いただけますと幸いです。
なお、あまりにも久しぶりに日記を書くので、記法を完全に忘れており、きちんとした文章にはなっていません。また、前回までの日記とあまりに内容が違っており、不審に思われる方もおられるでしょうが、前回までの内容も完結したわけでなく、また時間が取れれば追加記事を書くつもりです。

元となった厚労省部会資料

上記の新聞記事はほぼ横並びの内容ですが、上の部会資料と微妙に違うところがあります:

  • 部会資料では「上位所得者」という表現なのに、新聞記事では「高所得者」となっている。
  • 部会資料にある「自己負担の軽減について要望がある疾病の例」について、新聞記事ではまったく触れられていない

とくに最初の点は不自然で、要するにこれらの記事は、厚労省の記者発表の表現に基づいて書かれたものではないか、と私は考えています。したがって、「上位所得者」をわざわざ「高所得者」と言い換えているのも厚労省の意向ではないかと疑っています。

現行の高額療養費制度

難しいので、リンク先の説明を参照してください。

【PDF】高額療養費制度について
p.6(pdf.7/13); p.9(pdf.10/13); p.12(pdf.13/13)(前者はPDFに記されているページ数で後者はAcrobatReaderで表示されるページです、以下同様)
【PDF】グリベックを服用される方へ 知っておきたい医療保険制度〜高額療養費 2010年5月改訂版
製薬会社のページですが非常に良く説明されています。

はてなブックマーク - アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタルで誤解されている方もおられますが、現行制度ですでに所得によって3段階に分けられています(【PDF】高額療養費制度について p.9(pdf.10/13)):

  • おおよそ年収800万円以上の「上位所得者」
  • 「一般所得者」:上位所得者と低所得者の中間
  • おおよそ、単身で年収100万円以下、夫婦で150万円以下、3人世帯で200万円以下の「低所得者

年に3回高額療養費の支給を受けますと、4回目からは自己負担額がさらに減額されます。この4回目以降を「多数該当」と呼んでいます。

現行制度の大きな問題点:逆転

年収が多い方が相対的でなく絶対的に損をする、とか、医療費が多い方が自己負担額が却って少なくなる、といったことが起きます。しかも、その差額がばかになりません。
【PDF】グリベックを服用される方へ 知っておきたい医療保険制度〜高額療養費 p.13(pdf.7/9)が具体的な数値で参考になりますので、以下で用います。これは現実にありうる数値です(同p.12に書いてあるようにグリベックは標準では1日4錠1万円強で、ずっと服用する薬です)。

医療費が多い方が自己負担額が却って少なくなる(多数該当による逆転)

p.13の70歳未満の方の「5錠」と「6錠」のところで「一定以上の所得者」(=上位所得者)の欄を見てください。

上位所得者 6錠 5錠
最初の3ヶ月 150,248 132,705
4ヶ月目以降 83,400 132,705

上位所得者では月15万円以上が高額療養費対象ですから、5錠では対象外です。一方、6錠だと上位所得者でも高額療養費対象となり4ヶ月目以降はかなり自己負担額が減ります。このまま1年間服用を続けた、としましょう(グリベックは長期服用する薬です)。

  • 6錠では、150,248*3 + 83.400*9 = 1,201,344
  • 5錠では、132,705*12 = 1,592,460

となり、5錠のほうの自己負担額が40万円近く高くなります。
ここまで鮮やかではありませんが、一般(所得者)の「3錠」と「2錠」でも同様のことが起きます。

一般 3錠 2錠
最初の3ヶ月 80,204 58,482
4ヶ月目以降 44,400 58,482
  • 3錠では、80,204*3 + 44,400*9 = 640,212
  • 2錠では、58,482*12 = 701,784

【PDF】高額療養費制度について p.8(pdf.9/13)の表の関節リウマチの項で、

※年齢・所得区分によっては高額療養費の支給水準にまで窓口負担が達しない

とあるのは、このような支給水準に達しない方が却って苦しくなる場合があることを言っているのだと思います。

ほんの僅かな年収の差があまりにも大きな自己負担額の差を生む

【PDF】高額療養費制度について p.9(pdf.10/13)のような基準で、所得によって分けられていくわけですが、このときどちらの階層に属するか、という僅かな差が、とんでもない自己負担額の差を生じさせます。
【PDF】グリベックを服用される方へ 知っておきたい医療保険制度〜高額療養費 p.13(pdf.7/9)の右上、70歳未満の表をもう一度見てみましょう。
年収800万円程度のAさんとBさんですが、ほんの僅かの所得の差でAさんは「上位所得者」、Bさんは「一般所得者」となりました。二人がグリベックを「5錠」1年間服用し続けたら、どうなるでしょう?
「5錠」では「上位所得者」にとっての高額療養費支給水準には達しません。いっぽう、「一般所得者」では高額療養費対象になりますし、4ヶ月目以降はさらに減額も受けられます。そうすると:

  • Aさん:132,705*12 = 1,592,460
  • Bさん:81,854*3 + 44,400*9 = 645,162

なんと自己負担額の差が、100万円近くになります。Aさんは、Bさんよりほんの僅か所得が多かったばっかりに90万円以上多くの支出を強いられることになるのです。グリベックの標準的な使用量である「4錠」で計算しても、

  • Aさん:107,964*12 = 1,295,568
  • Bさん:81,029*3 + 44,400*9 = 642,687

65万円の差、Bさんの2倍の負担額となります。

高額な抗がん剤の長期服用は高額療養費制度が元々は想定していなかった

この制度は、高度成長期の昭和48年に成立した。当時、薬の数など知れており(例えば、抗がん剤など数種類しかなかった。今は、その100倍だ)、長期間にわたり高額な自己負担が発生するなど、想像すらしなかった。この制度は、大きな手術や一時的な入院を念頭において作られた制度なのだ。医学は進み、社会は変わった。
http://opinion.infoseek.co.jp/article/530/3.

上の引用を含む、以下の2つは、現在の高額療養費問題を考える際、必読だと思います。

現在の高額療養費は、【PDF】高額療養費制度について p.12(pdf.13/13)にありますように「年間最大負担額(当初3カ月+多数該当9カ月)が総報酬月額〜万円の2カ月分程度となるよう設定」ということのようです。しかし、これが10年とかずーーっと続いていくとなると(グリベックは十分にそれがあり得ます)、これは負担がきつい。そして、上に述べたように、支給水準に達しない支出が延々と続き、総報酬月額の2カ月分を上回ってしまう、ということも現実の問題です。
【PDF】高額療養費制度について p.8(pdf.9/13)で、慢性骨髄性白血病と消化管間質腫瘍での要望が「高額療養費の支給対象となるが、治療が続くため月々の負担が重い」となっているのは、そういうわけです。

「上位所得者」は「高所得者」ではない

今回の報道で、一番頭に来るのが「高所得者」という表現です。部会資料でいう「上位所得者」ですが、今まで述べてきたように年収800万円程度以上を指します。ボーナスや税、社会保険料などを引いた手取りは会社によってかなり異なるでしょうが、メディア(最近では『SPA!』など)に載っている給与明細などから推察するに、40万円は切る30万台後半くらいではないでしょうか。これで、月額15万までは高額医療費対象にならない、というのは、高額な支出が延々と続いた場合はさすがにきつすぎる、と思います。
いや、本当に月々10万円の支出が続く状況になったらどうしよう?というのは頭から離れませんから。
まして、新しい試算では、それをさらに18万円にアップしようとしているのですから。

見直し試算

【PDF】高額療養費制度について p.3(pdf.4/13)にありますように、上位所得者の支給水準を、月額18万以上に上げ、さらに最上位(おおよそ年収1000万円以上)については月額25万円とする試算が出されています。

年収800万円前後の僅かの差が140万近くの差に

この試算では、上に述べました逆転現象を解消ないし軽減させようという案は全く出されていません。したがいまして、月額17万円の医療費支出が続くとしますと、上位所得者は年204万の支出、いっぽう一般所得者は65万弱、という支出になります。
年収800万で年200万の自己負担は、厳しいでしょう。
なお、年収1000万円でも、月々22〜23万の支出がずっと続いていけば、それまでの生活は崩壊してしまうと思います。

長期・半永久的な支出の軽減を

こういうふうに見てくると、新聞報道ではまったくなされなかった【PDF】高額療養費制度について 「高額長期疾病(特定疾病)に係る高額療養費の特例について」p.7(pdf.8/13)、「自己負担の軽減について要望がある疾病の例」p.8(pdf.9/13)について、まず配慮してほしい、というのが切なる願いです。また、病名で限定してしまうと認定までにかなりの時間費やすことにもなりますから、年単位などである額を超えたら自己負担軽減の対象とする、というようなやり方も用いてほしい。所得によって差がつくのはもちろんかまわないでしょう、ともかく現状では長期的高額支出についてはどの階層でも辛いのです。

年収300万以下の方への減額

もちろん【PDF】高額療養費制度について p.1(pdf.2/13)に示されている策は、絶対に実現してもらわねばなりません。患者の掲示板とか見ていても、この層の現行制度での負担は洒落じゃないレベルと感じます。

負担

【PDF】高額療養費制度について p.4(pdf.5/13)見ればわかるように、年収300万以下の人への自己負担軽減についてだって、たとえ問題大杉の試算に沿ったところで上位所得者の負担増だけでは賄えません(尤も、健保組合、共済組合にとっても無視できない額にはなります)。結局、どういう形にせよ国民の負担で考えてもらうよりほか無いかと思われます。上位所得者の負担増だけでは賄えない、これは重要ですので何度でも確認しておきます。
とはいえ、上位所得者は知らん振り、というのも無理があるかもしれません。上に述べたように継続的な支出となると現行でもかなり苦しいように思えますが、短期的な支出に関してはまだ余裕のある層はあるかと思います。負担の逆転現象が生じないようにする配慮はまず第一に重要ですが、そうした中である層には短期的支出増をお願いする、というのも考えられる策の一つでしょう。

遠い将来や極端でありそうも無い例を考えても仕方ない

はてなブックマーク - お金の切れ目が命の切れ目 - NATROMのブログを見て感じるのですが、「現在、とくに数字が示される具体的な状況や試算」と「近い将来考えられる状況」、「遠い未来の仮定的要素の強い予想」とをごっちゃにして論じても意味ないでしょう。「遠い未来」については、予防医学がどこまで進み、そしてそれが医療費全体に対してどう作用するのか、など分からないことが多すぎます。また、高額な治療といっても、保険適用が考えられるようなものとしてあまり極端なものを"仮定"したって無益でしょう。たとえば無重力状態でしかできない治療というのはあるかもしれませんが、そういうのまで考える、もっと正確に言えば、現行の具体的な状況を考えなければいけない時にそういう仮定的な例を考えるなんてナンセンスです。(飛行機が自由落下している僅かな時間にスーパー外科医が超絶手術する、というのを今思いつきました、誰か使ってください。)
具体的な案が出されているときに抽象的な一般論だけ出してくるというのは、高額医療費を自分の問題と捉え具体的な金額の是非を真剣に検討しようとしている人にとっては、本当に迷惑極まりない行為です。

論じる前にもっと現状を知る

私自身がまずもっと知らなければいけないことですけど。
たとえば産経新聞の医療の連載は、非常に意欲的なもので是非読んでいただきたい、と思います。

いろいろ論じるのはこういうのを読んでからでも良いのではないでしょうか?
あるいはがん患者のブログなども。

抜けがちな点

とはいえ、はてなブックマーク - お金の切れ目が命の切れ目 - NATROMのブログなど見ても、どうもあまり考えられていない点がいくつかあります。その中で最大のは、高額な抗がん剤を長期服用していても、多くの人は働ける、それもかなりの場合ほぼ普通に、ということです。お金が払えず早く亡くなってしまった場合と比較するときは、早く亡くなったことによる労働損失も含めて考えないといけません。
もちろん高額療養費対象者の中には働けない人もいるでしょう。お年寄りならその比率は高いでしょう。しかし、その場合でも多くの人は、消費することはできます。そして、もし医療費の心配が無いとは言わずともかなりの程度軽減されるなら、がん患者の消費性向はかなり高いものになるだろう、と私は予想しています。自分の命の有限性をよく認識してますから、使えるときに使う、行きたいところに行く、などの志向が強いのではないでしょうか。もし医療費負担の心配が大きくなければ、です。そういった社会的な影響についても考慮した上で、負担の分担等について考えを進めていけば、と思います。

あと追加:「がん保険」っていろいろあるけど、高額療養費で十分に保障しきれない高額な抗がん剤の長期服用、がちゃんと保険内容に入っているかどうかは確認しておいた方が良いですよ。少なくとも謳い文句の中には見えないものも多いから。