今週のお題「名作」
世に芸術作品、文学作品はたくさんあるが、とくに今の時代、様々な作品の情報で溢れかえっている。正統派から個性派、奇を衒ったものまで様々だ。そんな中から名作を選ぶのは難しい。名作、秀作、佳作、力作、それぞれあるが、まずは名作の規定をしてみようか。名作は、作者のいた時間と空間を超えてずっと残っていく作品だと思う。今持て囃されている作品がこれからも時代を超えて残っていくかどうか、それは誰にもわからない。ましてや、人々の世界観が急激に変わって行こうとしている現代、何が残っていくのだろう。
とは言え、今までの作品で名作を挙げることはできそうだ。たとえば、今も読み継がれている古典や文学作品、名画の数々。分野は様々だし、これだけ歴史が進んでくるとその数も多いから、ここで一般的な名作を並べてもあまり意味はない。だから、まずは自分が感動したり何らかの影響を受けたりした好きな作品を思い出してみよう。
小学生の頃は、村岡花子訳の児童文学をよく読んだ。モンゴメリーの「赤毛のアン」シリーズ、オルコットの「若草物語」などなど。それから、グリム童話は兄の本棚にあったのを小学校1、2年生の時に読んだ。わからない漢字は想像しながら。版画の挿絵が付いていたので読みやすかった。「ラプンツェル」や「いばら姫」や「白鳥の王子」などなど、ワクワクしながら読んだものだ。アンデルセン童話も面白かった。小学校も中高学年になると、偕成社の世界文学全集を読むのが楽しみだった。中学に入るまでは漫画も読んだ。水野英子の「セシリア」や「白いトロイカ」、あと「カメリア館」というのがあったと思うが、内容も作者も覚えていない。ただ、題名は印象的だった。それから、小学生の頃は、夕方のテレビで映画名作劇場みたいなものがあって、毎日ではなかったと思うが、学校から帰ってくると観たものだ。「我が青春のマリアンヌ」「望郷」「パリの屋根の下」「天井桟敷の人々」などなど。また、これはアメリカ映画だが「カサブランカ」「誰がために鐘はなる」「モロッコ」など。「モロッコ」のラストシーンで、マレーネ・ディートリッヒが外人部隊のゲーリー・クーパーを砂漠に追うのだが、その時ハイヒールを脱ぎ捨てる。足が火傷しないといいなあと思ったのを覚えている。内容は覚えていないが、ビットリオ・デ・シーカ監督の「終着駅」も観た。とにかくあの頃の映画は、恋愛シーンがあってもきわどい描写はなかったので、子供でも問題なく観られた。小学生の頃に観た映画が、私の映画好きの原点だった。
小学生の頃はもっぱら外国ものが多かったが、もっと歳が行ってからは、日本の名作と言われる作品も読んだ。漱石や鴎外や芥川龍之介は、学校の課題で読まなければならなかったと思う。山本有三の「路傍の石」、住井すえの「橋のない川」は自発的に読んで心に響いた。日本の小説と言えば、大きくなってから読んだ高橋和巳の「邪宗門」の衝撃は大きく、徹夜で読んだものだ。それから、小学生の時に「ああ無情」として読んだ「レ・ミゼラブル」も完全版を読み直し、通学の電車の中でも読むほどその世界に入り込んだ。外国の長編作品を読んでいる時は、完全に自分もその国その時代に生きている。「風と共に去りぬ」もそうだった。
学生時代に読んで深い印象を受けたのは、エラスムスの「痴愚神礼賛」だ。今も変わらぬ人間の生態を余すところなく描いている。彼は、マルティン・ルターに「優柔不断だ」何だと非難されたが、寛容思想の人だったと思う。賢明な人間は、決めつけをせず、というか人間の本質を知っていればできず、自然と他者に対して寛容になる。対して、狂信は争いを引き起こす。他者を受け入れないからだ。この本は意外とマイナーなようだが、もっと読まれていい本だと思う。痴愚神の語りを聞いていると大いに笑えるし。
映画についても、また改めて書いてみたいと思うが、今日のところはこの辺で。