法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『86―エイティシックス―』雑多な感想

 電撃小説大賞の大賞を受けた安里アサトデビュー作の同名ライトノベルを、2021年からA-1 Pictures制作で2期にわたってTVアニメ化。石井俊匡はこれがTVアニメ初監督。

 最終2話の放送延期のため2期から視聴を止めていた作品を、ようやく最後まで視聴した。
 会社をたちあげたばかりの時期に過労死を出したものの、アニメ業界では制作体制が安定できているA-1 Picturesらしく、映像は高位に安定していて安心感がある。


 しかし両方を知っている人は誰もが指摘するが、何から何まで『コードギアス 亡国のアキト』そっくり。

 アジア系モデルの少数民族は数字で呼ばれ、コーカソイド系モデルの民族を守るため最前線に追いやられる。そこでマジョリティの少女司令官がひとりだけ差別的な状況に苦悩する。
 主人公の搭乗する兵器は白い四つ足で、敵の多くはドローン。死神のように無感情な主人公と、同年代の少年少女のチーム。主人公が直面するのは、かつて敬愛できる対象だった兄……


 ただ、当時は完結していた本編『コードギアス 反逆のルルーシュ』の中間時点を描いた外伝『亡国のアキト』は、その時点で世界が破滅することはないと観客は知っている。そこで話がすすむにつれて、対人戦闘をつづけるなかで赤根監督らしい赦しのドラマとして収束していった。一方で『86』はマイノリティに守られているマジョリティもふくめて人類全滅の可能性が暗示される。そこで押しよせつづける無人兵器に対してすべての対立陣営が協力していくことになり、生き抜き戦い抜くドラマへ収束したという違いはある。
 ラノベ原作らしくモノローグ多めな『86』は、その動きのない映像でもりあげていくアニメとして意外といい。かわりに戦闘で敵味方の位置関係がうまく映像で説明できておらず、TVアニメとはいえ舞台が変化にとぼしく、気のきいたメカのギミックも少なく、メカアクションアニメとしては最後まで弱かった。最終決戦の花畑の色が変わるギミックなど、文章で表現できるところは悪くないのだが。文章で表現しづらい戦場の細かいディテールは、アニメスタッフがオリジナル描写を追加してでも充実させてほしかった。

『わんだふるぷりきゅあ!』第7話 ふたりのフレンドリベラーレ!

 いろはが朝になって起きると、こむぎがいなかった。こっそり家出をしたこむぎは自分だけで何でもできると考えていたが、公園にあつまるペットと主人の光景を見て、さらに悟と出会ったことで泣き出してしまう……


 成田良美シリーズ構成の脚本に、『トロピカル〜ジュ!プリキュア』でシリーズディレクターだった土田豊の演出。作画監督は沼田広と稲上晃の共同で、やや修正は甘いが作画はかわいらしい。
 こむぎがどのように姿を消したか気づいたいろはや、いろはが想像したこむぎの能天気な姿など、やたら変顔が多くて楽しい。シリアスな状況でただギャグを入れるだけなら違和感があるが、いったん無事な姿を先に視聴者へ見せているので安心して笑える。
 物語としては、前々回*1に登場した新アイテムをつかった新技が完成するまでの販促エピソードにとどまる。主人とペットをつなぐリードが失われたことがこむぎの家出につながる構図はあるが、基本的に問題の解消は言葉をつかったコミュニケーションによっておこなわれ、人間と動物のドラマではありえない。あくまで幼い視聴者に向けた教訓だ。悟という潤滑油を用意して販促ノルマを無駄な引っかかりなく消化した良さはあったし、まゆの短い出番も必要最小限で印象づけられたが、それ以上のものはなかった。
 また、ガルガルが暴れる方向性を指示するようなキャラクターも登場したが、動物が擬人化したような姿なので過去シリーズとの差別化はできている。一応、今後に期待したい。

『貞子3D2』

 呪われた配信映像の事件から生きのびた女性教師だが、出産後に亡くなってしまう。そして産まれた少女の育児は女性教師の夫の妹が助けていた。
 やがて呪われた配信映像の事件がふたたび起こるようになり、その近くに女性教師が産んだ娘がいることに父親が気づく……


 鈴木光司の小説をアレンジした2013年の日本映画。英勉監督は続投しているが、あらすじで書いた主役の交代にともなって主演は変更された。

 3Dを売りにしている映画の2作目であり、今回は鑑賞時にスマートフォンのアプリと連動する企画も追加された。


 今作は『リング』シリーズで『シャイニング』をやってみたかったのかな、という感じがある。しかし和製モンスターホラーとして後半は楽しかった前作*1と違って、幻覚のような恐怖がおそってきては目覚めて中断することがくりかえされるため、映画のテンションが寸断されてしまっている。
 ストーリーにしても、あのキャラクターが実は生きていた、を延々とくりかえす展開におどろきあきれる。このシリーズにもう上等なドラマは期待していないが、いくらなんでも安易すぎるだろう。それでいて感動的な家族愛描写にしようとして、ホラーもサスペンスも寸断されて密度がうすい。
 怪しい子供が呪いの動画を蔓延させた犯人ではないと語られるが、それでは真犯人は誰かというとまともに説明されない。なぜ他に貞子の子供が多数いるのか、その経緯はどのようなものか、ホラーなりに納得できる説明描写はほしい。真相を暗示する結末の分割映像も完全にギャグだ。

『貞子3D』

 ある自殺者の配信映像が若者のあいだで話題になっているらしい。それが気がかりな教師の周囲で不審な自殺があいつぐ。やがて自殺事件の謎を追う刑事と協力して、すべての根源へとたどりつくが……


 後に漫画の実写化作品を多く手がける英勉監督による、2013年の日本映画。鈴木光司の『リング』シリーズの一短編を、オリジナル展開を多く足して映画化したという。

 続編を見る前に全長版を視聴。基本的な感想は下記エントリと変わらない。シリーズに期待されていないC級クリーチャーホラーとしては意外と楽しかった。
hokke-ookami.hatenablog.com
 感想で書いていないところをいうと、橋本愛が演じる貞子の美少女ぶりはシリーズのなかでも突出している。登場した少し後に白目部分をVFXで赤くするような即物的な表現が雰囲気を壊していくが。
 他に感想を書いていない部分として、主人公の恋人の友人が唐突に高架下にあらわれて、異常に笑いながら不思議な話をはじめるシークエンスは良かった。勝手に情報がとびこんでくる展開は謎解きとしては安易だが、白昼でありながら不思議な雰囲気があってホラー演出としても悪くない。


 しかし自殺したアーティストが貞子を復活させて全世界を呪おうとする理由が、作品がパクリとしてバッシングされたというバカバカしさはどうかと思った。それで何人も女性を殺して井戸に投げ捨てる儀式をしたわけだが、たとえ呪いが存在しなくても大事件になるはずで、もう少しまともな動機を設定できなかったものか。ちょっとインターネットユーザーをバカにしすぎではないだろうか。
 あと、少女や主人公の恋人が呪いの動画をさがして視聴しようとする動機が全長版を見ても理解できないことも疑問だった。面白半分でさがしているにしては熱心すぎるし、それでいて勝手に再生がはじまった時には驚き恐怖する。呪いの動画を信じているわりに対策していないことが不思議でしかたない。自殺した友人のため呪いの動画を自分もさがそうとする少女も、やはり対策していないので再生がはじまった動画におびえるだけ。
 そもそも、この呪いの動画は貞子の器をさがすために存在していて、勝手に再生がはじまったりするので、わざわざ登場人物がさがさなくても物語は問題なく成立する。たとえば迷惑メールにURLが記載されたりファイルが添付されたりする描写なら、ずっと自然に物語が成立するはずだ。

『相棒 season22』第20話 トレードオフ~AI右京の完全推理

 拡散された杉下右京の配信映像はAIをつかったフェイクだったが、警視庁は本物あつかいして杉下と甲斐を謹慎させる。しかし自由になった杉下は独自に行動をはじめ、ひとつの真相に気づいて武智淑郎官房長官接触。しかし秘密裏に招かれた邸宅で武智は殺害されていた……


 最終回SP後編。前編*1で印象深かった政治学者は再登場せず、政治学者を襲撃した少年の背景も早々に解決する。
 ただ、そこで反権力の政治学者を起用した気骨あるはずのプロデューサーが、実際は権力に加担していたという構図の逆転を杉下が推理したところは良かった。輿水脚本らしいミステリのエッセンスを感じる。
 今回に発生した殺人事件もシンプルだし、現場にいあわせた杉下の推理は根拠薄弱なものの、やはり構図の逆転劇には面白いところがあった。組織のなかで閉塞した状況に追いやられた正反対の人物が協力することになる展開は、一種のダークヒーローであり「相棒」でもある。トリックとしては交換殺人の一種。
 推理の最中にエンドテロップが流れるあたりも、解決編を重視するミステリらしさがある。敵も味方も上も下もAIを活用して罠をかけあって状況が無駄に混沌としてしまった感じはあったし、もっと整理すれば政治を舞台とした本格ミステリとして切れ味が良くなっただろうとも思うが、期待しすぎなければ悪くない回だった。